2020年09月23日

読書雑記(296)古処誠二『ビルマに見た夢』

 『ビルマに見た夢』(古処誠二、双葉社、2020年4月)を読みました。戦記文学に属する5編の連作短編小説集です。

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■「精霊は告げる」
 戦時下、西隈軍曹の視点で日本軍が語られます。
 老婆ドホンニョが語る精霊の話が、物語の背後に生きています。お告げが民心に与える力が語られていきます。
 ビルマ人労務者をめぐる日本人同士の諍いが、生き生きと語られていました。
 飛行機の精霊を具現化する空襲のお告げを無視することで、軍務と労務は進められていくのです。【3】

■「敵を敬えば」
 ビルマ人の信心深さから語り出されます。
 子供のモンネイがいなくなりました。西隈が探し回ります。
 探し当ててからは、モンネイという純粋な子供とのやり取りを通して、日頃の戦のことなどを西隈は考えます。【3】

■「仏道に反して」
 ペストやコレラの蔓延を防ぐために、ネズミの捕獲に手をつける話です。ペストで死んでいく娘の話は、今の流行に通ずるものがあるので身につまされました。予防注射を打つ場面も、生き生きと語られています。兵隊はもちろんのこと、住民の集団接種でも整然と統制が取れていました。西隈が各部落を巡回する姿勢が、こうして現れたと言えるでしょう。
 ただ一つ、シン族だけは、長老が接種に難色を示し、難儀します。そのような中で、雪谷見習士官のビルマを直視した独立国家をめざす新しい世代に向けたことばは、長老たちの胸にも響いたのです。作者のことばでもあります。ビルマは、自分たちの力でイギリスから独立したのだからいい国を作り上げるはずだ、ビルマは自立するはずだ、という作者の信念が、この行間から読み取れました。【5】

■「ロンジーの教え」
 一見じゃまそうに見えるロンジーも、ビルマ人の生活には知恵の集大成でした。ビルマ人の昼寝の習慣も、勤勉な日本兵にとっては理解し難いものでした。そんなビルマ人の生きざまやものの考え方に、理解はできるものの、この戦時下には排斥すべき生活習慣だとします。
 私も、ヤンゴンでロンジーを買ってきました。確かに、脱ぎ着が面倒です。本作では、生活様式の違いや、民族の考え方の違いなどが、具に語られています。こうした詳細な描写が、リアリティをもって語られています。【3】

■「ビルマに見た夢」
 日本式の味付けを覚えた、ビルマ人の炊事婦が活写されます。凧揚げも、日本軍のビルマにおける難しい戦況の裏返しです。さまざまな夢が交錯する中で、パゴダでの合掌が話の綴じ目となります。この後が、日本軍の悲惨な話にならない節度が、本作の価値を高めていると言えるでしょう。戦争の実態を、静かに語り終えています。仏教の国ビルマを舞台にした、戦地における現地の人々との交流に視点が置かれた、新しい戦争文学となっています。【4】

posted by genjiito at 23:50| Comment(0) | ■読書雑記