2020年03月20日

読書雑記(281)高田郁『あきない世傳 金と銀 八 瀑布篇』

 『あきない世傳 金と銀 八 瀑布篇』(高田郁、時代小説文庫、角川春樹事務所、2020年2月18日刊行)を読みました。

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 本書は、ハルキ文庫の書き下ろし作品で、初春と初秋の年2冊を刊行することが律義に守られています。今回は2月が何かと多忙だったために、文庫本の入手と読了に手間取り、1月遅れの読書雑記となりました。
 これまでの本シリーズに関する記事を、まず整理しておきます。

「読書雑記(159)高田郁『あきない正傳 金と銀 源流篇』」(2016年03月11日)

「読書雑記(179)高田郁『あきない世傳 金と銀 二 早瀬篇』」(2016年09月03日)

「読書雑記(196)高田郁『あきない世伝 金と銀 三 奔流篇』」(2017年03月13日)

「読書雑記(205)高田郁『あきない世傳 金と銀 四 貫流篇』」(2017年08月23日)

「読書雑記(224)高田郁『あきない世傳 金と銀 五 転流篇』」(2018年03月22日)

「読書雑記(254)高田郁『あきない世傳 金と銀 六 本流篇』」(2019年02月26日)

「読書雑記(266)高田郁『あきない世傳 金と銀 七 碧流篇』」(2019年08月19日)


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「第一章 追い風」
 半年ごとの、待ちに待った刊行です。
 これまでの話を思い出しながら、江戸浅草に店を出した五鈴屋江戸店の繁盛ぶりを確認できる一話です。7代目である幸の姿も、店の者も変わりません。
 大坂の医者修徳が書いた、掛け軸の10文字が読めないことが話題になります。今後、この言葉がさらに話題となり、折々の心に刺さる言葉になることでしょう。【3】

「第二章 修徳からの伝言」
 前章の掛け軸の文意がわかりました。儒学者の説明では、油断をするなとのこと。修徳からの戒めの言葉だったのです。郷里の摂津に学び舎を作りたいとのことです。話が、また新たな展開を予想させます。【4】

「第三章 凪」
 ハシカの大流行で、江戸市中では多くの人が亡くなりました。呉服屋への客足も途絶えます。蕎麦や里芋がハシカの治療に障るとのことで避けられます。街全体がひっそりとします。
 紫草が熱や痛みを取ることから、江戸紫の反物の切り売りが子供の鉢巻に良いということで、新たな需要が生まれます。意外な展開となります。
 なお、本作を執筆中には、作者は今大問題となっている新型コロナウイルス流行のことは予想だにしなかったことでしょう。校正の段階では、あるいは気付いたのかもしれませんが。刊行と共に、話題がそのまま読者の興味と結びつくことになりました。【3】

「第四章 恵比須講」
 麻疹騒動も一段落し、幸の店にも賑わいが戻り出します。そこへ、歌舞伎役者の菊次郎から、恵比須講の手土産とする江戸紫の小紋染めの注文が来ます。
 日本橋の両替商「音羽屋」との出会いがあります。話がまたさらに広がります。【2】

「第五章 百花繚乱」
 年末から年始への町の様子が生き生きとしています。幸の妹の結に、玉の輿の話が舞い込みます。しかし、それは二十歳も上の両替商である音羽屋の後添いでした。幸の妹への助言と判断は手際の良いものでした。【2】

「第六章 賢輔」
 五鈴屋の8代目を誰にするのかということと、7代目の幸の妹である結の結婚の話が見通せるようになりました。お店の業績も含めて、すべて安泰です。これからの物語が確実に動き出しました。【3】

「第七章 不意打ち」
 突然に降って湧いた上納金の話に、物語が緊張します。それまでが、順風満帆の流れだっただけに、今後の展開が楽しみになります。ここからが、高田ワールドです。読者としては、まってました、というところです。【4】

「第八章 思わぬ助言」
 幸の2番目の夫で失踪中だった惣次が、井筒屋3代目店主の保晴として現れます。物語は意外な人物の登場で、急展開の予感が漂います。惣次の助言は、上納金は止めておけ、というものでした。それなら、どうしたらいいのか、難題が投げ出されます。そんな中で、8代目のことに新たな道が用意されます。賢輔と結の結婚については、本人の意思が尊重されます。【4】

「第九章 肝胆を砕く」
 上納金の件も何とか片付きました。大坂からは周助が、白子からは梅松が来ます。次の話の準備が整いました。【2】

「第十章 響き合う心」
 型付師の力蔵と、型彫師の梅松が会います。上京したばかりの梅松は、力蔵の家で世話になることになりました。最強のコンビが一つ屋根の下で仕事を組むのです。そこに、図案を担当する賢輔が加わります。明るい、力強い作業の環境ができました。さらには、8代目までも決まったのです。【3】

「第十一章 百丈竿頭」
 賢輔は、干支の漢字を模様にする発想で斬新な文様を思いつきます。それを、白子から上京してきた梅松が彫るのです。これで、新しい小紋染めの世界が拡がります。そんな中で、また音羽屋が結との結婚を申し入れます。しかし、結は心に決めた人がいると、きっぱりと断わります。師走の話が本書の幕引きへと導く、章の数合わせのような短編です。【3】

「第十二章 怒濤」
 結の告白と賢輔の気持ちが、宙に浮いたまま話は続きます。8代目の話はうまく認められるようです。干支の型紙も年内にできました。ところが、意外な事態で本巻は閉じます。短い話なので、帳尻合わせのような章かと思っていたので、これには驚きました。最後に、読者の気持ちをぐっと摑み、次巻へと連れて行こうします。その巧みさには脱帽です。高田郁はエンターティンメントの世界を身に付け、着実に成長し進化しています。今後の活躍が、ますます楽しみな作家です。【5】
 
 
 
posted by genjiito at 19:02| Comment(0) | ■読書雑記