2019年11月22日

平安文学の翻訳から見たポケット翻訳機への期待

 ポケット翻訳機に関する情報が賑やかに流れています。
 ソースネクストの「ポケトーク」シリーズが国内シェアの約95%という状況が続いていたようです。私も、今年の3月にルーマニアでその実力のほどを体験しました。ブカレストにあるカンテミール大学を訪問した時、同行の保坂さんが持参しておられた「ポケトーク」が、現地の先生の早口ことばを日本語に器用に翻訳してくれたのです。その音声認識力と日本語に翻訳されたことばには驚きました。
 その「ポケトーク」も、来月12月6日発売の「ポケトークS」(24,800円〜税別)では74言語に対応し、カメラで文字を撮影すると55言語で音声とテキストに、19言語ではテキストに翻訳してくれるそうです。
 現在私は、科学研究費補助金の基盤研究(A)で「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」(課題番号︰17H00912)というテーマに取り組んでいます。この「多言語翻訳」における「本文対照システム」を考えている身としては、この翻訳機としての情報文具を研究に活用して、研究の進捗に資するテキスト作成に使わない手はありません。
 1981年から、私は情報文具としてのパーソナル・コンピュータの文学研究への導入の可能性と、『源氏物語』の本文データベースの構築を追求してきました。当時はまだ、全角のひらがなも漢字も使えませんでした。その成果が、拙著『新・文学資料整理術パソコン奮戦記』(桜楓社、1986年)です。個人的なホームページ〈源氏物語電子資料館〉を立ち上げたのは1995年でした。それが今では、驚異的な進化をとげてAI時代と言われるようになりました。翻訳という文化にも、翻訳機が急展開して日常生活に溶け込んでくることでしょう。
 そんな意識から、今日現在のポケット翻訳機の情報を集めてみました。
 これらは、使ってみないことには、それがどの程度の成果を見せてくれるのかわかりません。特に、私は平安文学作品の翻訳文を扱うので、ビジネスのための用途ではないし、求める翻訳の質も違います。しかし、とにかくこれから普及するであろう、まさに待ち望んでいたドラえもんのひみつ道具である「翻訳こんにゃく」の出現なのです。これから、ドラえもんが翻訳こんにゃくをどのような場面で使い、その翻訳の役割は何だったのか、その結果はどのような展開を生んだのか? などなど、あらたな視点で漫画の読み直しをしようと思うようになりました。

 現在のところ、「ポケトーク」以外には、以下の機器を確認しています。

(1)104言語対応のAI音声翻訳機「ランゴーゴー」
(2)155言語に対応する携帯型通訳端末「ワールドスピーク HYP10」
(3)29カ国語リアルタイム翻訳対応「Google アシスタント」
(4)137言語対応の音声通訳者「CTVMAN」(https://www.aliexpress.com/i/4000282485652.html?spm=2114.12057483.0.0.7e946383ro8cl8
(5)22言語対応予定の小型AI翻訳機「チータートーク」

 この流れの中で、私の科研でも研究手法の見直しが必要になりました。各種言語に翻訳された文章を読み上げて翻訳機で日本語にすれば、それが訳し戻しにおける下訳となる可能性があります。もしその翻訳文が使い物になる質の日本語文であれば、あとは確認さえすれば時間と経費の節減となります。言語別の翻訳謝金の検討を進めていました。しかし、これが可能となれば、翻訳に対する謝金の根拠の見直しを迫られます。人間にしかできないことであっても、その下ごしらえに少しは役立つはずです。もちろん、日本の古典文学作品の翻訳を通して、異なる文化圏へどのようにその内容が変質して伝えられていくのか、という文化の変容という研究テーマをどの程度手助けしてくれるのかは、まったく未知の問題です。それにしても、おもしろい時代となりました。
 これまで進めていた、平安文学作品の翻訳文を日本語に訳し戻す手法は、これから再検討します。同じように、『十帖源氏』の他言語翻訳も再検討となります。
 また、多言語表記を撮影して翻訳文を読み上げる機能は、目が見えない方たちにも新たな世界が広がります。カメラのレンズが、文字を読み取り文章を理解する上で、目の代わりをしてくれるかもしれないのです。文字による文化の伝承に関して、新しいコミュニケーションの提案ができそうです。手で書き写された写本や、印刷された出版物などを仲立ちとして、目が見えない人たちと共に、古典文学の話ができるようになることでしょう。
 多言語理解の壁は低くなり、お互いの文化をどのように異文化社会に伝えるか、ということを、平安文学を例にして実験的な研究に切り替えるタイミングがもう来たのです。新しい研究手法の模索を、早速始めることにします。
 若者たちの新鮮な発想を促し、刺激を受けながら、一緒に試行錯誤を愉しみたいと思います。
 
 
 
posted by genjiito at 20:05| Comment(0) | ◎情報社会