2019年11月05日

漢字で表記する「壺」と「壷」の違い

 今日、『淡交タイムス 第544号』(2019年11月号)が届きました。毎月いただき、読んでいます。

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 巻頭には千宗室家元の「当たり前の存在」という随想が寄せられています。「賀茂川のほとりを歩いていて、」(2頁)と始まり、出雲路橋の近くに「志波無桜碑」と揮毫された石碑がある話です。実は、私も散策の折に、左岸から右岸へはこの橋を渡っています。この碑が今どこにあるのか思い出せません。まさにテーマの通り、見過ごしている、ということです。
 続いて、千玄室大宗匠の「若き日の教え」が掲載されています。大宗匠の文章は次のように語り出されています。

 十一月八日には立冬を迎えます。「開炉」、「口切りの茶事」とこの月ならではの行事が続き、茶の風情が増し、茶人にとって思い入れの多い月となります。十九日の「宗旦忌」には、伝来の宗旦居士所用の呂宋に新茶が詰められ、茶師の上林春松氏が裃に威儀を正して毎年の如く、御祖堂へ茶をお供えに参ります。御祖堂でそのの引き渡しを受け、利休居士はじめ歴代祖宗方へご報告をすませます。まずの入っている箱の蓋を改めて御茶入日記を確認し、次にの封印を確かめます。十一月末には家元とともにの封印を切り濃茶・薄茶の葉茶を取り出し、それぞれ臼でひいて、御祖堂の利休居士、歴代祖宗方、そして仏間の霊位にお供えいたします。(4頁、赤字と緑字は私に色を施してわかりやすくしたもの)


 これで、全体の3分の1を引いたことになります。この文章を読み始めてすぐに「壺」が何度も出てくる中に、「壷」という漢字(赤字で示した)が一例だけ混在していることが目に留まりました。この後には「壷」も「壺」もまったく出てきません。
 「茶」という単語に限って、茶道では特にこの漢字をつかうのかな、とか、何か特別な意味があるのかな、と思い、便利なスマホに入っている『日本国語大辞典』と『大辞泉』を見ました。しかし、「壷」という漢字が出てきません。それではと、今風にネット上で調べてみました。

「ウィキペディア」の「壺」の項目
漢字の字体は、下部を「亞」とする「壺」および、「亜」とする「壷」という2種類の表記が用いられる。2000年12月8日の国語審議会答申においては、常用漢字並みに常用される印刷標準字体としての表外漢字字体表として「壺」を採用しており、ウィキペディア日本語版においても表外漢字字体を用いる基準が採用されている(Wikipedia:表記ガイド#漢字参照)ことから、固有名詞などを除いては「壺」を用いることが妥当である。
ただし、康熙字典には「壷」が正字体として掲げられている。これに従い、『角川大字源』では「壷」を見出しに用いているほか、朝日新聞では1950年代から2007年1月15日付まで「壷」を用いていた。


「Yahoo!知恵袋」の「「壺」と「壷」、普段用いる場合どちらの漢字を用いるのが好ましいのでしょうか?
辞書によっても、表記は区々なので分かりません。
また、この漢字は、前者は旧字体で、後者は新字体なのでしょうか?」という項目
「ベストアンサー」
大漢和辞典で調べた所、解説は「壺」の方にかかれていますが、「壷に同じ。」とも書かれ、「壷」の方には、ただ「壺に同じ。」としか書かれていません。

「大漢和辞典」が必ず正しいという訳ではありませんが、この事から見て、本来、広く使われていたのは「壺」の方だったと思われます。

しかし、常用漢字が定められた時につくられた略字では無いので、どちらが「旧字体」「新字体」という事は無く、またいくつかの辞典を調べても、「壷」を俗字としている物も見当たりませんでしたので、「壺」が本字、「壷」は略字・俗字ともいえない様です。
「同字」或いは「別体」というべき関係かと思われます。

試しにmsnで検索した結果、

「壷」では、314,497 件
「壺」では、355,402 件

と、「壺」の方が多く検索に引っかかりました。
観光地の「油壺」が「壺」を用いているため等も有ると思われます。

結論としては、どちらが好ましいとも言い切れないと思われます。(2005/11/14)


これ以外に2例の回答があります。それも引いておきます。

「壺」は正字ですが「壷」も字体は違うが前者と同等に用いられてきたのですからどちらを使ってもいいと思いますよ。前者が旧字体で後者が新字体ということはありません。ただし苗字はべつにしてください。


伝統的には、活字の時代には「壺」が用いられていました。
ですから、「壷」は新しい字体です。
ただし、常用漢字には入っていませんので、旧字・新字の関係ではありません。
角川書店の『新字源』が、金文(青銅器に刻まれた字)などに照らして「壷」の形でよい、としたのが初めだと思います。

結論はどちらでもかまいません。
ただ、個人的にはやはり「壺」を使ってほしいと思います。
「印刷標準字体」もこちらを採用しました。

なお、これと似ていながら全く違うケースがあります。
「亜」「悪」(新字体)は俗字であり、本来の正しい形ではありません。
「亞」「惡」が正字です。


 要は、どちらでもいい、の一言です。漢字の専門家には、この漢字についての意見があるのかも知れません。これから気をつけておきます。
 『源氏物語』の場合には、普通は「桐壺」と表記して、「桐壷」とはしません。私は学生時代には、書きやすいことから「桐壷」と書いていました。しかし、しだいに主流の「桐壺」と書くようになり、仮名漢字変換をするときも「桐壺」にしています。
 さて、大宗匠の文章に「壷」が混じっていたのは、特に意味があってのものではなかったようです。ここでは、お決まりのように、印刷時の漢字の変換ミス、ということにしておきます。
 些細なことで、これといった収穫のある話ではありません。しかし、知らなかったことを知り、楽しく思いをめぐらせました。
 
 
 
posted by genjiito at 20:14| Comment(0) | *身辺雑記