2019年10月16日

愛知文教大学で翻訳本に関する出張授業

 今日は、愛知文教大学で「海外で読まれている平安文学 −翻訳本の表紙を楽しむ−」と題して、出張授業をして来ました。科研の成果を公開することで、若い学生たちに最新の情報を提供し、一緒に考えるきっかけを作り出そう、とするのが目的です。
 配布する資料の冒頭には、次の説明を掲げました。
 これから、このプログラムをメニューの一つとして、全国各地を回って行く予定です。

開催目的:日本古典文学が海外で受け入れられている現状と世界の書籍文化を知る機会の提供

開催基盤:科研(A)「海外における平安文学及び多言語翻訳に関する研究」
     (課題番号︰17H00912、研究代表者・伊藤鉄也・大阪大学)

後援協力:特定非営利活動法人〈源氏物語電子資料館〉

講義補助:吉村仁志(科研運用補助員、同志社大学・3年生)

配布冊子:『平安文学翻訳本集成〈2018〉』(伊藤鉄也 他3名編、2019年3月)
     【ダウンロード先】https://genjiito.org/aboutkaken/allresearchreports/

閲覧資料:『平安文学翻訳本集成〈2018〉』に掲載した翻訳本から20点を適宜選択

情報公開:「海外へいあんぶんがく情報」(http://genjiito.org

講義概要:
 日本の古典文学の中でも、平安文学は多くの国々で翻訳され、広く読まれている。例えば『源氏物語』は36種類の言語で翻訳されている(2019年10月16日現在)。
 今回は、その翻訳本の表紙と中身および収集の来歴を紹介し、そこから見えてくる今後の新しい研究テーマを紹介する。平安文学を翻訳した本の表紙デザインの多彩さを楽しんでいただけるように、20冊を精選して持参した。世界各国の翻訳本を自分の手で触り、目で見て、表紙絵・装訂・用紙・文字の諸相を体感してほしい。そして、日本の古典文学の中でも平安文学が、さまざまな外国語に翻訳されている状況やその意味を考えていただけると幸いである。


 キャリーバッグに詰め込んで持参した翻訳本20冊は、以下のものてす。

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※『平安文学翻訳本集成〈2018〉』での、持参した20冊の図版番号と翻訳言語
  (G=源氏、H=平安 未収=冊子に未収録)
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〈前掲写真の左側〉(英語・日本語・ビルマ語・タミル語・タイ語・チベット語)

【G10、英語】 【H4、英語】 【H14、『蜻蛉日記』、英語】 【H『百人一首』、英語、未収】

【G日本語訳、未収】【G73、ビルマ語】【G38、タミル語】【G『あさきゆめみし』、タイ語、未収】

【G画帖、英語、未収】 【H11、英語】 【H11、チベット語】
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〈前掲写真の右側〉(中国語)

【H6】 【H39】 【G『あさきゆめみし』(中国語)、未収】

【G解説、日本語、未収】 【G解説。英語、未収】 【G解説書、中国語、未収】

【G45、繁体字】 【G55、簡体字】 【G42】


 名古屋駅でJR中央線に乗り換え、高蔵寺駅からスクールバスで大学へ行きました。気持ちのいい樹々の中に、爽やかな学校がありました。写真左端の建物の2階が、本日の会場でした。

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 まずは、学長室で少しお話をしました。広報のためにブログ用の写真を、とのことだったので、それでは私も訪問した証明写真を、ということで学長と写真を撮り合いしました。大学の広報紙に、この時の写真が掲載されるようです。

 会場は階段教室が用意されていました。

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 学生には、今春発行した『平安文学翻訳本集成〈2018〉』と、お話する内容を分かりやすくまとめたA4カラー版7枚の資料を配布しました。持参した翻訳本20冊は、教室の前の方に並べました。

 約60分間、レジメを基にして写真やホームページを映写しながら、一般の学生であることを意識して説明を進めます。
 まずは、こんな部屋で世界中の翻訳本と情報を整理していますよ、と箕面キャンパスの研究室の様子を映し出しました。

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 今日の受講生は学部1年生で、科目名は「日本の伝統と文化」です。日頃から科研の資料と情報の整理で箕面キャンパスに来ている科研運用補助員の吉村仁君も同行し、会場で手助けをしてもらいました。
 スクリーンに写真や資料を映写しながら、海外での平安文学の研究状況や翻訳本の実態を語りました。おおよそ、次のような進行です。

 最初に強調したのは、『源氏物語』が36種類の言語で翻訳されていることです。

【『源氏物語』が翻訳されている36種類の言語一覧】(2019年10月16日 現在)

アッサム語(インド)・アラビア語・イタリア語・ウクライナ語・ウルドゥー語(インド)・英語・エスペラント・オランダ語・オディアー語(インド)・クロアチア語・スウェーデン語・スペイン語・スロベニア語・セルビア語・タミル語(インド)・チェコ語・中国語(簡体字)・中国語(繁体字)・テルグ語(インド)・ドイツ語・トルコ語・(現代)日本語・ハンガリー語・ハングル・パンジャービー語(インド)・ビルマ語・ヒンディー語(インド)・フィンランド語・フランス語・ベトナム語・ポルトガル語・マラヤーラム語(インド)・モンゴル語・リトアニア語・ルーマニア語・ロシア語・(※日本点字訳を予定)


 また、近年は英訳『源氏物語』の訳し戻しがなされています。
 ・『ウェイリー版 源氏物語 全4巻』
  (佐復秀樹訳、平凡社ライブラリー、2008年〜9年)
 ・『源氏物語 A・ウェイリー版 全4巻』
  (毬矢 まりえ, 森山 恵、左右社、2017年〜19年)
 具体的には、次のような訳の違いが見られます。
 「Her lodging was in the wing called Kiritsubo.」の“wing”
  →佐復訳「対」、毬矢訳「本殿から離れたウィング」

 同じように私の科研でも、各国の翻訳を訳し戻していることを報告しました。可能であれば、ネイティブスピーカーと日本人の翻訳者の2人で訳すようにしています。

■平安文学作品の翻訳本を日本語に[訳し戻し]すること(※公開準備中)

 各国語に翻訳された文章を日本語に一元化し、それを通して、日本文化が変容して伝えられていく諸相と実態を確認し、研究者等と共同研究の形で考察していく。各国にどのような表現で平安文学が、ひいては日本文化が伝えられているのか、ということを調査研究しようとするものである。日本文学を通して日本文化が海外にどう伝わっているかの究明が、この研究において最終的に取り組む課題となる。


 また、『十帖源氏』を多言語翻訳する取り組みも紹介しました。

『十帖源氏』の翻訳と研究

 日本側で作成した平易な現代語訳を活用して各国で翻訳を進める
  検索表示画面 http://genjiito.org/10jyougenji/10jyougenji_japan/
  (カーン訳) https://genjiito.org/heian_data/glossary_db_kri_02/
  ※各国の翻訳の訳し戻しを基礎資料として、国際集会で共同討議を行なう
 翻訳しやすい現代日本語訳を東京と京都で作成中
 NPO法人〈源氏物語電子資料館〉のホームページから公開中
  http://genjiemuseum.web.fc2.com/10jyo-kiroku.html


 インドにおける8言語による翻訳の例も、日本の文化を多言語に翻訳することの困難さの事例としてあげました。
 併せて、表紙のデザインにも注目してほしいとも。
 例えば、金閣寺や遊女や浴衣等が描かれた表紙絵からは、日本をイメージするアイテムの性格が、国々によって異なることがわかります。アジア諸国は、欧米とは異なるデザインになっているように思われます。これらは、これからの若者に考えてもらいたいこととして提示しました。

 最後の20分は、実際に持参した翻訳本を手に取って見てもらいました。
 質問の中には、なぜこんなにたくさんの平安文学作品が翻訳されているか、ということがありました。よくわからないと前置きをした上で、読んだ内容が京都へ行くと追体験できることも、人気の一つではないか、と答えました。地名や通りや建物が数多く今も残っているので、千年前の日本の話であっても、イメージを作り上げやすいのだと思われます。再確認や再構築することが容易なのです。虚構と現実とが錯綜する楽しみを実感できることが、海外の多くの方々に読んでもらえる背景にあるのではないでしょうか。
 翻訳することの意味も考えましょう、と問いかけました。翻訳本を通して、日本の文化が他国に言葉の移し替えによって伝わります。その伝わり方を調べることは、自ずと異文化交流につながるのです。国際交流の原点に立つことになります。言葉にこだわることの意味を、学生たちには何とか伝えることができたのではないかと思います。
 久しぶりの授業で緊張しました。しかし、心地よい疲れを味わうこともできました。
 今後とも、この取り組みを続けたいと思います。声をかけてくだされば、こちらから翻訳本を持って伺います。まさに、出前授業です。科研の成果を公開するものなので、金銭的な負担はおかけしません。次は、来年2月に行くところがほぼ決まっています。その前後にも可能ですので、お問い合わせいただければ検討させていただきます。
 
 
 
posted by genjiito at 22:39| Comment(0) | ■科研研究