2019年10月05日

映画雑記『見えない目撃者』(2019.9.20 公開)

 目が見えない人が中心となる作品だ、という知識だけで観ました。あらかじめこの作品について調べることなく、とにかく観たのです。観ておかなくては、という思いからです。
 いずれ、WOWOWなどで再度観られるでしょうから、またその時に詳しく自分なりの意見を書きます。今は初発の感想、ということに留めます。

 この映画を観終わった今、書かれた台本とそれを映像にした方に対して、大いに不満があります(監督:森淳一/脚本:藤井清美・森淳一)。
 目が見えない方々への温もりのある視線を感じませんでした。また、警察組織への冷たい蔑視が露骨に伝わってきました。これは、なぜでしょうか。私は映画はそんなに観ないので、映画の見方は知りません。今回の作品は、サスペンスの中でもスリラー物です。この分野はこんな風潮だと言われたら、そうですか、と言うしかありません。そうであっても、私は不愉快な思いで映画館を出たことは確かです。この分野がお好きな方からは、間違って観に来たんだからしょうがないよ、と一笑に付されるだけでしょう。しかし、という思いが残ります。

 観る前と後とで、こんなに気持ちが変わるものかと、我ながら驚いています。もし、製作者側がそうした違和感を抱くような反応を意図していたものであるならば、少なくとも目が見えない方々への冷めた視線は盛り込んでほしくありませんでした。私が知っている目が見えない方々は、音声ガイド付きのこの映画を観たら、何とおっしゃるでしょうか。途中で観るのを、いや聴くのを辞めて、楽しい『百人一首』のカルタ取りをなさることでしょう。この目が見えない登場人物が繰り広げる内容には、感情移入ができないだろうと思います。

 まだ私は、この映画製作の背景を知りません。ここに記しているのは、作品としての映画を観た直後の感想です。製作者側には、それなりの製作にあたっての動機があるはずです。そのことに思いを致しながら、まだ書いていきます。

 年齢指定(R15指定)がなされていた理由が、観ている途中でわかりました。残虐なシーンが多いのです。猟奇的な殺人であることを強調したいようです。六根清浄の儀式で、こうした行為を正当化しようとしています。六根とは、五感[視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚]に加えて、第六感としての[意識]を合わせたもののことを言うようです。この映画では、それを清浄にすることと殺人の正当性が結びついています。製作者側も、それを足場にして物語を展開させています。しかし、六根清浄とは何なのか、という説明はしっかりとすべきでしょう。

 この映画は、バリアフリー上映がなされていて、視覚障害者用の音声ガイドと聴覚障害者用の日本語字幕が用意されているそうです。事前に知っていたら、スマホに専用アプリをインストールして行くのでした。これらのシーンを、音声ガイドはどのような日本語で語るのでしょうか。映画『光』(2017年公開、河瀬直美監督)では、視覚障害者のために映画の音声ガイドをする仕事を取り上げていました。今回の映画は、目が見えない方々にとっては、自分たちの存在が置き去りにされていると感じられないかと危ぶまれます。

 私はここまで酷たらしい場面を見せつけなくてもいいのに、と思いました。スリラーを見慣れないので、そういうものだと言われたらそれまでです。
 目の見えない方が、音や匂いに対する鋭敏な感覚を持っておられることを知っています。この作品でも、そのことに注目して展開しています。そうであっても、私はこの映画をお勧めする人を選びます。人間の残虐さをしつこく描いているからです。正直、私には、見たくもないシーンが多すぎました。リアルに描き出していると言ってしまえないものを感じました。

 また、犯人の動機には、十数年前の体験があります。しかし、それが今回の連続殺人につながることについては、あまり詳しく語られません。掘り下げが浅いと思われます。

 この映画を、警察の方がご覧になったら、どのように思われるでしょうか。令状なしに家捜ししたり、拳銃の扱いも無頓着です。警察の情報も漏れ漏れです。最後の場面で、事件の解決に協力した若者が、自分も警察官になろうと思う、と明るい未来を語ります。こんな太平楽な終わり方でいいのでしょうか。

 思うようにならない身体を抱える人や、精神的にも身体的にも未成熟な少女たちの存在を玩ぶ、なんとも不気味な視線が随所に見られました。社会的に弱い立場にある人々への、製作者側の正視しないまなざしに深い疑念を抱きました。

 最後に、製作に関わった多くの方々の名前がロールアップしていきました。しかし、この人たちはどのような思いで自分の役割を果たされたのだろうかと、じっと名前を追いました。こんな不信感で映画の最後を目で追ったのは初めてです。楽しくない、後味の悪い映画でした。
 
 
 
posted by genjiito at 22:59| Comment(0) | ■読書雑記