2019年09月28日

「源氏物語と三十六歌仙の写本を変体仮名で読む会」(第5回)

 大徳寺に近い船岡山の南側に建つ「紫風庵」で、5回目となる変体仮名を読む会を開催しました。
 門を入って階段を登ると、薄桃色の酔芙蓉が迎えてくれます。

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 今日配布した資料は、A4版で18枚です。お話したいことがたくさんあり過ぎて、回を追うごとに枚数が増えています。本日の参加者は9名でした。
 まず、配布したプリントの確認からです。

・前回第4回で一緒に学んだことの確認
  「「源氏物語と三十六歌仙の写本を変体仮名で読む会」(第4回)」(2019年08月24日)
・今日見る三十六歌仙は、高光・公忠・僧正遍昭の3名であること

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・各歌人の和歌を、変体仮名に注意して読む
・「三十六歌仙一覧」を元にして、これまでに見た歌仙の確認
・ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」巻は、14丁表1行目の「おもやせ・堂満へる」から読むことの確認
・谷崎潤一郎の小説で使われている変体仮名
・道路標識の平仮名表記(新聞記事)
・平安京の「羅城」と「九条大路」の発掘で範囲が確定(新聞記事)
・10月26日(土)開催の「NPO主催のイベント」の案内

 まずは、勉強会をする座敷で、3名の歌人の和歌をプリントに印刷した図版で読みました。
 谷崎潤一郎の小説の冒頭文を提示したのは、前回の課題であった、谷崎は「こと」と書く時に「 ˥ 」とする例を見ていただくためです。『鍵』(初版、棟方志功の装丁)の冒頭は、次のように書き出されています。

一月一日。……僕ハ今年カラ、今日マデ日記ニ記スコトヲ躊躇シテヰタヤウナ柄ヲモ敢テ書キ留メル ˥ ニシタ。


 そして以降、この僕の日記の部分には「 ˥ 」が用いられています。妻の日記には使われません。
 日頃はあまり見かけない文字「 ˥ 」が並んでいることに加えて、回覧した初版本(昭和31年)の棟方志功の装丁や挿画のみごとさに魅入られながら、みなさま納得しておられました。
 ついでに、谷崎潤一郎の代表作である『春琴抄』の、初版(昭和8年)と全集(昭和33年)と通行本(昭和f57年)の冒頭部分の仮名表記を見てもらいました。例えば、次のように書いてあることを見ると、仮名の表記が移り変わって来ていることがわかります。

【初版】春琴、うの名は
【全集】春琴、うの名は
【通行】春琴、うの名は


 『春琴抄』の初版本では、最初の頁の6行分だけでも、次の変体仮名が出てきます。
 「本」「連」「里」「春」「古」「能」「阿」「志」
 現在流布する本は、現代仮名で印刷されています。そうでないと、変体仮名をほとんど知らない現代人には、初めて刊行された昭和初年の小説『春琴抄』が、変体仮名につっかかって読めないということがわかります。参会者のみなさまには、あらためて平仮名といっても変体仮名が使われていた状況と、現代の平仮名のありように気付いていただけたようです。

 30分ほど見聞を広めてもらってから、「紫風庵」所蔵の襖絵「三十六歌仙」がある部屋に移動しました。

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 今日は、京都工芸繊維大学の先生で中世を中心とした美術史が専門の井戸美里さんがお出でになっているので、最初に絵の専門家にこの歌仙絵についてコメントをしていただきました。江戸中期の小振りな絵で、絹布に丹念に鮮やかな彩色が施されているものであることに驚嘆の声を上げておられました。粉本を元にして、一つのグループが手がけた作品ではないか、とのことです。今回初めて見たものでもあり、少し調べてまたコメントをしてくださることになりました。

 今日の3名の歌仙の和歌は、次のように翻字しました。

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◎左から三領目の襖《右上》
■高光(かくばかりへがたくみゆる世中にうらやましくもすめる月かな)
                      (拾遺和歌集 四三五)
   右 藤原高光
 閑く者可里へ可多
         く
 三ゆ累よのな可
      耳
 うらやましくも
   す免る【月哉】


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◎左から三領目の襖《右中》
■源公忠(行きやらで山路くらしつほととぎす今ひと声のきかまほしさに)(拾遺和歌集 一〇六)
右 源公忠朝臣
【行】やら帝【山路】
   具らしつ【郭公】
  今一こゑの
    き可まほしさ
          尓


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◎左から三領目の襖《右下》
■僧正遍昭(たらちねはかかれとてしもむばたまの我が黒髪をなでずやありけむ)
                 (後撰和歌集 一二四〇)
 右 僧正遍昭
 堂らちね八可ゝれ
   とてしもう者【玉】
           能    
 【我】可くろ【髪】越
      なて須やあ里け
           舞


 これで、確認した歌仙は次の赤字の歌人となりました。

■三十六歌仙一覧(赤字は確認済)
(第2回)柿本人麿 紀貫之 凡河内躬恒 (第1回)伊勢 大伴家持 山辺赤人 在原業平 (僧正遍昭) 素性法師緑 (第4回)紀友則 猿丸大夫 小野小町 (第3回)藤原兼輔 藤原朝忠 藤原敦忠 (第5回)藤原高光 源公忠 ※僧正遍昭 壬生忠岑 斎宮女御 大中臣頼基 藤原敏行 源重之 源宗于 源信明 藤原清正 源順 藤原興風 清原元輔 坂上是則 藤原元真 小大君 藤原仲文 大中臣能宣 壬生忠見 平兼盛 中務


 歌人の並び方から見ると、今日の僧正遍昭だけが別のグループ(在原業平 素性法師)に属する人です。このことは、回を追って問題点を明らかにしていくつもりです。

 ハーバード大学美術館蔵『源氏物語』「須磨」の写本の確認は、14丁表1行目から14丁裏3行目までできました。
 紛らわしい字形としては、「を・せ」「れ・那」「尓・支」がありました。
 今日も、時間いっぱいまで、目と脳をフルに活用しての勉強会となりました。
 次回は、10月19日(土)の午後2時からです。
 
 
 
posted by genjiito at 22:42| Comment(0) | ◎NPO活動