2019年09月27日

藤田宜永通読(34)『銀座 千と一の物語』

 『銀座 千と一の物語』(藤田宜永、文春文庫、2017年1月)を読みました。

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 古き良き時代を思い出しながら、銀座の今昔を背景にしてショートストーリーがつづられていきます。個包装の小さなビスケット33個を、1つづつ口に入れた感じがしました。薄味で、少し粉っぽさが残る食感です。

 2年半前までは、私も銀座は日常的にブラブラしていたので、いくつかのお店や路地などが懐かしい映像として立ち現われて来ました。ただし、私はそれぞれのお店の方との交流はなかったし、取材をしたこともないので、ここに語られている人と人とのコミュニケーションを大いに楽しみました。小話も、適度に整理されていて、読み進むのが楽しい一冊でした。もっとも、語り手が情に流されて話が閉じられるので、ワンパターンの感触が残ります。
 間に添えてある白黒写真は、現代を語る話なのでカラーが良かったと思います。
 並んでいる短編は、いずれも口当たりのいい、オシャレで粋な、昔を回想する話です。うまくまとめてあるだけに、作り話としての嘘臭さが読んだ後に邪魔をします。銀座を舞台にすると、お酒が絡むことも多くなり、なかなか自然な物語は紡ぎ出せないようです。
 第17話「大嘘つきの秘話」に、私が好きな吉行淳之介が通っていたという『まり花』というバーの話が出てきます。リクルート本社の裏の道の雑居ビルの地下です。壁にはボタンの花が描かれた絵が飾られています。写真も掲載されています。いわゆる文壇バーです。今も営業をしているようなので、機会を得て確かめたいと思います。
 登場人物が『源氏物語』の勉強をしていたことが書かれています。

「 両親の影響だろう、私も本が好きで、結局は大学では日本文学を学び、今は母校で教鞭を執っている。専門は源氏物語である。」(218頁)

「あまり人には話してないんですけど、私、ここに入る前、学校に残って源氏物語の研究をしていました」(224頁)

「編集長もね、源氏物語の研究をしてたことがあったそうだよ」(225頁)


 しかし、『源氏物語』の勉強をしていたということは、内容とはまったく関わりません。味付けを変えたかったのでしょうか。『源氏物語』が添え物のパセリのように使われています。これも、『源氏物語』の受容の一例としておきましょう。
 巻末に、取材撮影協力者の名前が列記されています。いくつか行ったところがあります。掲載された『銀座百点』も、お店でもらっては時々読んでいました。巻末の取材地図を見ながら、私もまた、ブラブラと歩いてみたくなりました。【3】
 
初出誌︰『銀座百点』2011年4月号〜2013年12月号
・2014年3月に文芸春秋社から単行本として刊行。
 
 
 
posted by genjiito at 19:28| Comment(0) | □藤田通読