2019年07月05日

読書雑記(261)船戸与一『蝦夷地別件(中)』

 船戸与一の『蝦夷地別件(中)』(小学館文庫、2012年1月、651頁)を読み続けています。これは、全3冊の内の第2巻です。

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 世界的な視野で多民族の歴史と独立の問題を扱った長編なので、物語の展開を追うのも大変です。巻頭に登場人物44人の一覧と地図があります。しかし、カタカナ名前が苦手な私には、アイヌの人々の名前となるとさらに覚えられません。それでも、興味深い展開と描写に引かれて、快調に読み進んでいます。

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 「BOOK」データベースからその紹介文を引いて、物語の流れを押さえておきます。

長く患っていた惣長人サンキチが、和人からもらった薬を飲んだ直後に亡くなった。惣長人は殺されたとして、和人との戦いを叫ぶ声が一気に高まり、鉄砲がなければ戦うべきではないとする脇長人ツキノエの主張は次第に掻き消されがちになっていく。その頃、鉄砲の調達に奔走していたマホウスキは、ロシアの地で獄中に繋がれていた。ミントレをはじめ、マメキリ、ツキノエの息子セツハヤフら若者たちは、アイヌの蜂起を促す和人の動きもあって、ツキノエを択捉へ赴かせ、戦いの準備を始める。和人との戦いは、さまざまな対立を孕んで熱く燃えさかろうとしていた。


 物語は、ロシアでの暗殺や、蝦夷でのアイヌの動向に加えて、松前藩の蝦夷地統治の問題も浮き彫りになります。アイヌの蜂起は、和人との戦いです。その嵐の前の静けさに、月光が効果的に配されて物語を支えています。船戸の得意とする月光の設定です。
 和人と闘う決意を語る場面は、冷静な態度の中にも秘めた熱気が漲っています。これまで虐げられてきたアイヌの人たちの屈辱の想いが、溜まりに溜まっていたのです。我慢の限界を、不気味なほどに心の高まりを抑制しながら語ります。船戸の筆力を感じるところです。
 ハルナフリが、父セツハヤフの反乱を見守る役を負わされます。語り伝え、次に自分の時代が来たら立ち上がるための実地学習です。アイヌの和人たちへの憎しみが、地鳴りのような雷雨の中で、見事に活写されています。
 もう一つの話も展開します。場所は、ペテルブルク。ポチョムキン暗殺未遂に関して、マホウスキが厳しい取り調べを受けます。マホウスキは、300丁の鉄砲を調達する画策をしていた人物です。その背後にある政治的な動きが、ロシア当局の逆鱗に触れていたのです。
 遠く東の果ての小さな国の内乱を意識しながら、ヨーロッパでの権力闘争が語られていきます。まったく別次元の話のように思われることが、次第に連環していくところに、ダイナミックでワールドワイドな歴史のおもしろさを堪能できます。
 国後や択捉だけでなく、目梨に広がる、憎い和人を殺して一掃する話が展開します。そんな中で、アイヌ同士が仲間内で互いに憎み合う闘いも進行していきます。人が心を一つにして行動することの難しさと、個人の思惑、そして揺れ動く人間の心の問題が、丹念に描かれています。そうこうするうちに、裏切り者も出てきます。具体的な闘いに対する姿勢から、思いを統一することの難しさがえぐられています。中巻は、後半になるにしたがって盛り上がって来ます。ジッと読み耽りました。【4】
 
 
 
posted by genjiito at 19:03| Comment(0) | ■読書雑記