2016年01月21日

点字による変体仮名版の翻字は可能か(1/伊藤 to 中野)

 現在、電子版『触読研究ジャーナル』の創刊号発刊の準備を進めています。
 来月には、科研のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」に、電子ジャーナルとして公開し、ダウンロードしてもらえるようにします。

 その巻頭を飾る中野真樹さんの論文「日本語点字による写本翻字作成のための表記論」は、いろいろなことを考えさせてもらえる刺激的な内容です。
 ジャーナルの刊行を楽しみにお待ちください。

 そのゲラを拝読しながら、歴博本「鈴虫」を点字で翻字することにチャレンジしたいと思うようになりました。

 現在、私は変体仮名の字母を取り込んだ翻字を進めています。
 昨秋刊行した『国立歴史民俗博物館蔵『源氏物語』「鈴虫」』(伊藤鉄也・阿部江美子・淺川槙子 編著、新典社、2015年10月)の翻字を例にして示しましょう。
 次の翻字は、歴博本「鈴虫」の冒頭部分一行目です。


【従来の翻字】
なつころ・はちすの・はな・さかりに・入道
 
【変体仮名版】
なつろ・ちすの・者那・さ可里に・【入道】


 この変体仮名版を点字翻字するとどうなるか、ということを考え出したのです。

 明治33年に一文字に統制された現行のひらがなは、今の点字に対応しているので問題はありません。「ゐ」も「ゑ」も大丈夫です。
 問題となるのは、上記の翻字例で赤字で示した変体仮名を、点字でどう表記するか、ということです。

 日本語点字で写本の翻字本文を、それも変体仮名を交えた翻字本文を作成しようということなので、そこには底知れぬ大きな問題が横たわっていそうです。

 そうです、と言えるのは、まだ私が日本語点字をよく理解していないからです。
 不勉強であることを認めつつ、そうであるからこそ新たな扉が開く、ということもあるかと思い、そこに期待する部分も多分にあります。
 それはともかく、変体仮名の文字セット(約300字弱)がユニコードに対応することがほぼ確実な今、この問題は避けて通れないはずです。

 目の見える方のために作成された墨字の翻字とは異なり、点字の翻字には仮名遣いや文字遣い固有の問題があるはずです。
 それが、原文に忠実な変体仮名を交えたものにするとなると、前例がないだけにさまざまな解決すべき課題が噴出することでしょう。

 今は、変体仮名を2年後のユニコードに対応させることが、喫緊の課題だと思います。そのためには、古写本に書写された文字に忠実な翻字を点字で試みる、という具体的な問題を解決する中で、問題点の洗い直しと、その解決策を考えていくことが急務だと思い、ここにこうして急遽駄文を承知で綴ることにしたのです。

 歴史的仮名遣いと点字仮名遣いについては、古写本に忠実な翻字を目指す点においては、原文通りの表記で問題はありません。
 大きな問題は、変体仮名をどう表記するかということに加えて、踊り字、ミセケチ、補入、ナゾリ、傍記などをどうするか、ということです。つまり、写本の再現性の問題です。
 従来の翻字のように、原本に戻れない翻字では、将来に伝え残せないので意味がありません。この新たな点字翻字では、原本に忠実なものにしたいものです。

 また、「御」「給」「入道」などの漢字をどう扱うか、ということもあります。
 これには、8点式の漢字点と、6点式の6点漢字の導入が考えられます。
 しかし、ただでさえ変体仮名によって文字種が増える上に、そこに点字漢字を加えることは、翻字者や学習者に負担を強いるばかりです。

 これについては、立体コピーによる浮き出し文字で、点字が表現できないところを補うことも可能かもしれません。
 ただし、こうなると写本という対象と、それを翻字する文字や図形と、さらには誰が誰のために、という利活用者の問題が錯綜してきます。

 いずれにしても、こうした問題に興味と関心のある方々と一緒に、解決の手だてを得るための情報交換を始めたいと思います。
 とにかく、変体仮名がユニコードとして国際文字規格に公認される前に、以上の点は解決しておかなければなりません。『源氏物語』の「変体仮名翻字版」でデータベース化を進めている立場から、このことを痛感しているところです。
 意見交換の場を、科研のホームページ「古写本『源氏物語』の触読研究」に開設したいと思います。

 準備が整い次第に本ブログでご案内しますので、自由な意見をお寄せください。
 ああでもない、こうでもない、と言い合っているうちに、解決の糸口が見つかり、妙案が飛び出し、雲を摑むような話が具体化して実現する、という流れを夢想しているところです。

 以上、とりとめもない話ながらも、本記事を今後の「点字翻字変体仮名版」のための「ことあげ」とします。
posted by genjiito at 22:46| Comment(0) | ■視覚障害