2015年11月25日

読書雑記(147)角田光代『マザコン』

 角田光代『マザコン』(集英社文庫、2010.11)を読みました。


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 母と娘、母と息子、夫と妻などなど、さまざまな組み合わせで、家族や人間関係が語られます。
 特に、母の存在が多角的に描かれます。

 実は、私にはこの一連の作品が消化不良のままです。母と娘の関係が、感覚としてよくわからないのです。
 各作品の題名と内容も、うまく結びつきませんでした。

 本書は、いつかもう一度読むことになりそうです。

■「空を蹴る」

 非常に小気味よく、歯切れのいい文章です。しかし、その割には男の実体が描けていません。話も作り事すぎていて、あれっと思いました。初めて読む作家の作品なので、慣れない作風に戸惑ったからでしょうか。【1】
 
初出誌:『すばる』2004年1月号
 
 
■「雨をわたる」

 親子の関係が希薄な話です。娘の一人語りです。母親が無機質です。文章がだらだらし出しました。娘から見た母は、こんなものなのでしょうか。どこに焦点があるのか、あえてないことにしているのか、私にはまだよくわかりません。【1】
 
初出誌:『すばる』2004年10月号
 
 
■「鳥を運ぶ」

 母が飼っていた六羽のセキセイインコを、入院したことにより移動させる話です。インコを見る目が、なかなか楽しい描写となっています。わが家でも、40年以上にわたって何匹ものインコを代々かわいがってきたので、飼い主の気持ちがよくわかります。外出するのも大変なのです。それにしても、娘を中心とした人間関係が、何となくぎくしゃくしたままです。離婚の話が中途半端です。【2】
 
初出誌:『すばる』2005年1月号
 
 
■「パセリと温泉」

 娘から見た優柔不断な父親の姿が、さもありなんという雰囲気で描かれています。母親が、それに荷担します。
 その母親が胃癌で入院し、幻想からいろいろなことを言います。それに振り回される娘が活写されます。最後に母を見舞いにきた父を見たとたん、娘のものの見方が変わり出します。この話は、私にもわかりました。【4】
 
初出誌:『すばる』2005年9月号
 
 

■「マザコン」

 何事も言葉で説明しようとする男。思いつくままに言葉を連射する女。そんな構図で物語が構成されています。
 私が本書に馴染めないのは、感覚的な女と、観念的な男の対比が、終始気になって仕方がないからではないか、と思うようになりました。【1】
 
初出誌:『すばる』2006年1月号
 
 

■「ふたり暮らし」

 女性が買い物をする楽しさを描きます。「男の人にはわかんないだろうなあ」としながら。ケーキに下着に食料品。
 娘から見た母親がリアルに活写されています。あまり好意的な視点では描かれてはいません。
 母は娘たちを自分だと思っている、というのです。そして、私も自分を母だと思い込んでいると。同性に対する気安さが、その語り口に現れています。【3】
 
初出誌:『すばる』2006年7月号
 
 
■「クライ、ベイビイ、クライ」

 妻と母を相手に、それぞれに自分の気持ちを説明する口調が気になりました。
 自己弁護に終始する男の姿は、あまり感じのいいものではありません。
 本書の最初は歯切れのいい表現でした。それが、次第にだらだらと言葉が続くようになり、物語の内容も痩せてきました。【1】
 
初出誌:『すばる』2006年10月号
 
 
■「初恋ツアー」

 母の初恋ツアーに付き合う息子夫婦の話です。母を見つめる2人の優しさが、ごく自然に描かれています。登場人物のやりとりの軽さがいいと思いました。文章が平板なのが、まだ気になります。【3】
 
初出誌:『すばる』2007年1月号
 
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 収録作を読み終わり、手応えのないのが正直な感想です。しかし、ここに取り上げられている母親というものが、どうも気になります。今の私にはわからないものが、この中にありそうだからです。
 いつかまた、本書を取り出して再読するような予感がします。

 そして今、本作の作者が『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 全30巻』で『源氏物語』の現代語訳を担当されていることに想いを馳せています。
 池澤版文学全集の第3期(2017年5月〜2018年3月)に、角田光代氏の訳による『源氏物語』(上・中・下)が刊行される予定となっているからです。
 与謝野晶子、円地文子、瀬戸内寂聴、田辺聖子、中井和子、尾崎左永子、大塚ひかり、林真理子、荻原規子などとは異なる、新しい女性の視点からの新訳『源氏物語』が生まれるかも知れません。
 現在、現代語訳に取り組んでおられるところのようです。その刊行を、楽しみに待ちたいと思います。
posted by genjiito at 22:36| Comment(0) | ■読書雑記