2015年11月06日

放送大学で歴博本「鈴虫」を読む(その2)

 放送大学へ行くときのことです。
 東西線の大手町駅から丸の内線に乗り換えると、なんと行き先である茗荷谷駅止まりの電車でした。
 普通、一つ手前の駅までしか行かないという体験が多い私にとって、これはめずらしいことです。
 こんなささやかなことでも何となく嬉しくなる、気持ちのいいスタートです。


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 今日も、受講生のみなさまと楽しく勉強ができました。みなさんの反応がいいので、つい横道に逸れ、雑談になります。貴重な時間を浪費して、申し訳ありません。

 国冬本「鈴虫」に見られる、539文字もの長文の異文についてお話しすることが、今日の中心でした。
 資料を見たり、拙文を読んでもらったりで、配布した資料を行ったり来たりと、非常に慌ただしい展開となりました。資料に通し番号を付け忘れたこともあり、せわしない説明となり、本当に申し訳ありません。

 しかし、『源氏物語』にこんな長大な異文があるのだ、ということは伝わったようです。
 二千円札の裏に描かれた、国宝『源氏物語絵巻詞書』の変体仮名による「十五夜の夕暮れに〜」の直前にある異文なのです。興味と関心を喚起しながら説明したこともあり、この点において目的は達成されました。

 また、鎌倉時代の写本を読むことについても、自分にも読めそうだ、と思ってくださった方が何人もいらっしゃったようなので、この点も安堵しています。

 ただし、一つだけ言い訳をさせてください。
 プレゼンテーションについて、パワーポイントを駆使して流れるように展開してほしい、という要望を終了後にいただきました。
 手際の悪さを感じさせたようで、申し訳ありません。
 ただし、私はパワーポイントを使ったプレゼンは、極力というよりも意識的にしないようにしています。学会や講演会でパワーポイントを使ったプレゼンが始まると、いつ会場を抜け出るかというタイミングを狙う癖がついています。ライブ感がないプレゼンを、あえてその場で時間を共有して聞く必要はない、と思うからです。

 あらかじめきっちりとストーリーが組まれている、ビデオを見るようなプレゼンは、後で時間があるときに確認すればいい、と思います。自己満足と自己完結に加えて、自己陶酔の自作自演でしかないことに起因する、ほとんど刺激を受けないプレゼンは、私はしないように心がけています。

 そんな思いから、画像を見ていただく必要がある時には、私は写真だけを映し出すか、ウェブサイトを泳ぐシーンを示すことしかしません。
 普段は、プリントだけでお話をしたり研究発表をします。

 映し出されている画面を見ながら語る、という、ライブ感を大切にする手法をとっていますので、今日のプレゼンが無骨に思われたかもしれません。
 生意気ですみません。映写しながら考え考え語る、というのも一つのやり方として理解していただけると幸いです。

 もっとも、今日は実物投影機がなかったのでパソコンのカメラを使おうとして、反転画面を映し出したりしたことは大失敗でした。以後、気をつけます。

 今日は、受講生の方から教えていただいたことがいくつかありました。
 その中から2つだけ紹介します。

 まず、以前から自分自身の中でもモヤモヤしていた、「お」の字母は「於」でいいのか、ということです。この点に関しては、質問してくださった方への同感を示せても、納得していただける説明ができなかったので、これはあらためて調べます。

 これに関連して、次の読み方について、疑問を投げかけてくださいました。
 私が「おゝ本せ」(5丁オモテ1行目)と翻字して、「ゝ」に「(ママ)」を付した箇所です。


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 書道をなさっているその方は、この「おゝ」は「於」を崩したものとしていいのではないか、ということなのです。見せてくださった資料によると、確かにそうともいえます。

 先ほど京都の自宅に着くやいなや、早速『五體字類』(高田竹山、東西書房、昭和51年6月47版)』を確認すると、次のような例が上がっていることがわかりました。


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 左側2つ目の「俊」は藤原俊頼の書から採ったものだとあります。こうした例を見ると、「鈴虫」のここでの仮名文字は「於」としてもいいのかもしれません。ただし、歴博本「鈴虫」において、この他にこうした字形はまだ見つけていません。

 さらに参考までに手元にある資料で諸本の本文異同を見ると、34本のうち29本が「おもほせ」とあり、「おほせ」は5本でした。こうした傾向から見ると、ここは「おもほせ」と書くつもりだった「も」が「ゝ」のような形になってしまった例だとも言えます。
 このことは、今後の課題にさせてください。

 もう一点、「給つゝ」(7丁オモテ8行目)について、私はこの「ゝ」の右横に「〈判読〉」と付しました。しかし、この文字をジッと見つめていると、「給つる」でもよさそうです。


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 これも諸本を確認すると、「給つゝ」30本、「給て」4本でした。
 ここでの文意はともかく、書写されている文字を見たままに翻字することを心がけようとするならば、ここは「給つる」でもいいところです。しかし、諸本のありようを参考にすると、やはり「給つゝ」にしておいた方が無難なように思われます。
 あえて異文を作らない、というところから、翻字した通りに「給つゝ」に落ち着けたいと思います。

 先週と今日の2回にわたり、多くの受講者の方々にお話をする機会をいただきました。私にとっても、刺激的な出会いであり、楽しい時間となりました。
 みなさま、ありがとうございました。

 いろいろと質問をしていただきながら、時間の制約からあまり懇切丁寧な対応ができなかったかと思います。またの機会に、ということでお許しください。

 京都駅に着いたのが21時すこし前でした。
 駅前と京都タワーの間の広場では、水芸が始まったところでした。
 この軽快な音楽に合わせて七色の水が空中を舞うさまは、いつ見てもしばし佇んでしまいます。
 機会があればぜひご覧ください。


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posted by genjiito at 23:58| Comment(0) | ◎源氏物語