2015年05月27日

読書雑記(130)澤井希代治著『夢をつなぐ 全盲の金メダリスト 河合純一物語』

 澤井希代治著『夢をつなぐ 全盲の金メダリスト 河合純一物語』(ひくまの出版、1997,11)を読みました。


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 水泳選手だった河合純一さんは、中学3年生のときに失明します。
 それでも諦めることなく、バルセロナのパラリンピック全盲の部で、男子百メートル自由形で銀メダルを、さらにその後、アトランタのパラリンピックで、念願の金メダルを取りました。

 純一さんは、静岡県の中学から筑波大学附属盲学校高等部に入り、読めなかった点字も修得します。そして、バルセロナで開催されたパラリンピックの6種目に出場して、銀メダル2個、銅メダル3個を取りました。
 早稲田大学に入ってからのアトランタのパラリンピックでは、2個の金メダルと、銀と銅を1個ずつ取りました。

 本書は、静岡県教育委員会から教員採用試験合格の通知が届いたところで終わります。
 つまり、生まれてから社会人になるまでの一代記の形式です。
 この、苦労話をちりばめた努力顕彰型の執筆手法と、著者の筆力の乏しさに、私は大いに疑問を持ちました。

 純一さんを陰で支えた弟が描けていません。先生や水泳仲間のことも表面的で言葉足らずです。
 それよりも何よりも、純一さんの心の中に筆者が入り込んでいません。著者の想像力の欠如が顕著です。

 筆者は、純一さんの従兄弟だそうです。親族の立場から、温かい眼差しで負けん気の強い純一さんを語ります。しかし、その視線があまりにも純一さんに寄り添いすぎました。
 小さい頃から知っているのなら、もっと純一さんが心の中で悩み抜いた葛藤や、自分を応援してくれる人々への思いを代弁しなくてはいけません。そこまで、筆が伸び切らなかったことが、読んでいて返す返すも残念でした。

 ないものねだりかもしれません。しかし、せっかくの若者の貴重な人生が、この程度で語り終えたとされてしまっていることは、純一さん本人も不満足でしょう。これでは、親族やファンクラブの広報か宣伝を兼ねた、自伝を装ってのヨイショ本です。お涙頂戴で盛り上げることにも失敗しています。

 やはり、刊行されたこの内容はあくまでも前章であり、純一さんの夢であった教員として社会に船出してからが本章となるはずです。
 これまでの艱難辛苦が生徒との関わりと自分の生活の中でどうなるのか。
 教員としての生活に、目が見えないことでどのような影響があるのか。
 余人をもって変えられない生活体験が、どのように教育に生かされていくのか。
 さらには、その後のパラリンピックでの活躍の背景にある努力は。
 等々。

 本書のような内容に留まっていては、刊行を急ぎすぎたと言わざるをえません。
 このようなまとめ方で本を出版したことは、純一さんのこれからにもよくないと思います。【1】

※追記
 本書刊行後も、純一さんは、シドニーパラリンピック、アテネパラリンピック、北京パラリンピックに出場してメダルを獲得しています。ただし、ロンドンパラリンピックでのメダルはありませんでした。
 著書に、『夢追いかけて』(河合純一、ひくまの出版、2000.07))、『生徒たちの金メダル』(河合純一、ひくまの出版、2001.08))があります。やはり、本書で十分に語られていないことを、自分の手でなんとかしたかった、ということでしょうか。
 2003年には、本人が出演する映画『夢追いかけて』(三浦友和、田中好子等出演)が公開されました。ただし、これは酷評がなされているので、ここではとりあげません。
 さらには、国政に打って出るのです。そうしたことを読後に知ると、今後のさらなる活躍を願うだけに、本書の存在がかえって無意味なものに思えてきます。
posted by genjiito at 23:39| Comment(0) | ■読書雑記