2014年10月03日

各国で翻訳された『源氏物語』の表紙絵の展示

 今年も古典の日(11月1日)のために、国文学研究資料館1階展示室の一角をお借りして、ミニ展示を開催します。
 展示期間は10月9日(木)〜11月5日(水)です。
 これは、特別展示「中原中也と日本の詩」として開催される会場の出口に、小さなコーナーを作って観ていただく展示です。

 昨年の古典の日に関連した展示では、『源氏物語』に関する館蔵の貴重な本を出品しました。
 鎌倉時代に書写された『源氏物語』、室町時代の注釈書『花鳥余情』、江戸時代の『源氏物語団扇画帖』と『偐紫田舎源氏』、の4種類でした。

「国文研で「ミニ 源氏展」開催中」(2013年11月11日)

 今年は趣を変え、各国で出版された『源氏物語』の表紙絵の多彩さを観てもらうことにしました。
 この表紙絵については、昨年の国際日本文学研究集会の会場に2つのケースを並べ、14種類の翻訳本を休憩時間などに観ていただきました。

「翻訳本『源氏物語』のミニ展覧会の解説」(2013年11月29日)

 あれが好評だったので、今回は21種類とさらにパワーアップし、4ケースを使っての展示としました。
 本日、機関研究員の高科さんのすばらしいセンスにより、展示本の演示作業を無事に終え、来週9日のお披露目を迎えることとなりました。

 2008年に、〈源氏物語千年紀〉と〈国文学研究資料館の立川移転〉を記念して、源氏物語展「千年のかがやき」を開催しました。それを私が担当することになったので、重要文化財等の資料を扱うこともあり、懸案の学芸員の資格を取得しました。以来、折々に学芸員の目で展示を見ることが多くなりました。

 今回は、選書と簡単な解説文を整理しただけで、展示はすべて専門の高科さんがやってくださいました。演示に関して、以下のお願いをしました。
 
〈第1ケース〉
・【2】イタリア語の外箱の天地に丸みがあることに注目できるように……
   (赤の矢印を付けていただきました。)
・【3】クロアチア語の天金の装幀が見えるように……
   (天部を手前に傾けていただきました。)


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〈第2ケース〉
・【8】スロヴェニア語は2冊共に同じ表紙なので対処を……
   (1冊は扉が見えるようにしていただきました。本を重ねると痛むので演示台をとの提案に、自然なままに重ねましょう、と言ってこうしました。素人っぽくなったのであれば、お願いして演示台を使っていただきますが……)


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〈第3ケース〉
・【13】ハングルは3冊共に同じ表紙が並んでいることに、今、こうして京都に向かう新幹線の中で、この記事を書きながら気付きました。先ほどの展示会場では、迂闊にも気付きませんでした。
 これは、高科さんにお願いをして、どれか1冊を、裏表紙に須磨浦が描かれた面にしていただきます。
 この本の表紙絵は、この絵を描いた植村佳菜子さんと、この絵を所蔵する私には何の連絡も許可もなく、私がホームページから公開している画像を勝手に加工して使われたものです。しかも、ご丁寧に切り抜いて左右を反転するという、作品に対する権利意識がまったく希薄な盗用と改変になっています。

「植村佳菜子画「伝言」(関屋1)」
 
 出版社には、現地にいる仲間を通して抗議をしました。そして、私がソウルに行った折に、話し合いの場としてソウルの国際交流基金を指定して待ちました。しかし、そこに出版社の方はお出でになりませんでした。
 それ以後も何度かやりとりをする内に、いつしか連絡が途絶えた経緯があります。
 この田溶新氏によるハングル訳『源氏物語』は、私にとっては思い入れのある本です。このことは、時期を見てあらためて詳しく報告します。
 なお、表紙の裏面には、次の絵を切り抜いたものが使われています。

「植村佳菜子画「海辺」(須磨2)」

 このことは、2005年8月にオーストリアのウィーン大学で開催されたEAJS(ヨーロッパ日本研究協会)のオープニングセッションで報告しました。
 その予稿集のブックカバー(見開き)は次のようになっています。


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 この予稿集の冊子に、私は次の文を掲載しました。資料が散乱しないうちに、記録として留めておきます。


2.表紙の源氏絵について
 本年5月に、韓国ソウル市内の大型書店でのことであった。私が所蔵する絵画が、ハングルに翻訳された『源氏物語』(全3冊)の各裏表紙に、無断で使用されているのを見つけた。これは、教え子の植村佳菜子さんが描いた源氏絵108枚の内の「須磨」巻の一部を取ったもので、私のホームページ〈源氏物語電子資料館〉(http://www.nijl.ac.jp/~t.ito)から公開している源氏絵の盗用である。見つけたその場で、すぐに出版社に電話をし、出版にあたってのルールを守ってほしい旨を伝えた。私のホームページで公開している情報や資料が、作者と所蔵者に対する確認も了承もなく勝手に商用目的で使われることは、許されないことだからである。
 「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」に、日本は明治32(1899)年に加盟、韓国も1996年(日本の平成8年)に批准している。つまり、韓国においても、ベルヌ条約に加盟している日本における著作物であるこの「須磨」巻の源氏絵は、明らかに保護の対象とされるものである。
 お互いが快適に文化交流を続けて行ける環境を築き上げ、そして保って行くためにも、基本的なマナーは大切にしたいものである。
 このできごとは、〈源氏絵〉〈翻訳〉〈出版〉などに関連する問題とも言える。「源氏物語の享受と変容」の別視点からの資料となるのではないか、という問題意識のもとで、本冊子の表紙にデザインを加えて取り上げたしだいである。(61-62頁)


 前置きが長くなりました。今回の展示ケースの中は、こんな様子です。これは今日の段階のものであり、週明けにはハングル訳『源氏物語』の3冊の内の1冊は裏表紙が見えるようになっているはずです。


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〈第4ケース〉
・『あさきゆめみし』をいくつか取り揃えました。右側にタイ語訳を、左側に和装本が置かれています。このレイアウトは高科さんの妙技です。私も気に入っています。華やかさが感じられる見せ方ですね。
 左端のカラー画は、ゆったりと引き出した形になっています。この演示について、担当者は見開きの小口を折ってしっかりと見せたい、との意向でした。その確認を受けて、私は上部のカーブがなかなかいい雰囲気を出しているのでこのままにしておいてほしい、と伝えました。


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 今回の展示に添えた説明文を、このミニ展示へのお誘いを込めて、以下に引用します。
 なお、展示番号【4・5・6・11】の4点は、国文学研究資料館が所蔵する本です。ここに写真を掲載する手続きが間に合わないので、上掲写真ではカットしています。会場でご確認ください。

 また、『源氏物語』が翻訳されている言語は、本年2月にベトナム語訳『源氏物語』を確認したので、現在は32種類となっています。したがって、昨秋よりも一つ増えています。
 
 

「特設コーナー」
《さまざまな言語に翻訳された『源氏物語』》


 今回の特設コーナーでは、翻訳本『源氏物語』の表紙デザインの多彩さを楽しんでいただけるような選書をしました。
 各国で『源氏物語』がどのように受容されているか、という視点でご覧いただけると幸いです。
 【4】・【5】・【6】・【11】は国文学研究資料館蔵、それ以外は個人蔵です。

【『源氏物語』が翻訳されている32種類の言語】

アッサム語(インド)・アラビア語・イタリア語・ウルドゥー語(インド)・英語・オランダ語・オリヤー語(インド)・クロアチア語・スウェーデン語・スペイン語・スロベニア語・セルビア語・タミール語(インド)・チェコ語・中国語(簡体字)・中国語(繁体字)・テルグ語(インド)・ドイツ語・トルコ語・現代日本語・ハンガリー語・ハングル(韓国)・パンジャビ語(インド)・ヒンディー語(インド)・フィンランド語・フランス語・ベトナム語・ポルトガル語・マラヤラム語(インド)・モンゴル語・リトアニア語・ロシア語

 
【展示した翻訳本 21種類 16言語】

【1】アラビア語(エジプト、2004年)
   アハマド・モスタファ・ファトヒ訳
   瀬戸内寂聴訳『源氏物語』の抄訳のアラビア語訳。
   国際交流基金での出版翻訳事業のひとつ。

【2】イタリア語(2012年)
   マリア・テレサ・オルシ訳
   イタリア語訳としては初の古文からの直訳。
   表紙は国宝『源氏物語絵巻』「関屋」巻の西陣織。

【3】クロアチア語(2002年)
   ニキツァ・ペトラク訳
   表紙は国宝『源氏物語絵巻』「鈴虫」巻で、天金装訂が施されている。

【4】スペイン語(2004年)
   フェルナンド・グティエレス訳
   挿絵は、山本春正の『絵入源氏』(慶安三年版)の絵を使用している。

【5】スペイン語(2005年)
   ハビエル・ロカ・フェレール訳
   表紙は宮川春汀の「さくらがり」(Picnic、1897年)を使用している。

【6】スペイン語(全2巻、2006年)
   ジョルディ・フィブラ訳
   第1巻の表紙は「花宴」巻、第2巻は「浮舟」。
   挿絵に、底本のタイラー訳にある版本の絵を使用している。

【7】スペイン語(全2巻、ペルー版、2013年)
   イヴァン・アウグスト・ピント・ロマン、下野泉 共訳
   スペイン語で初の古文からの直訳。
   表紙は國學院大學蔵「久我家嫁入本『源氏物語』初音巻」。

【8】スロヴェニア語(全2巻、1968年)
   シルベスター・スカル訳
   ヘルベルト・E・ヘルリチュカのドイツ語訳からの重訳。
   表紙に浮世絵を使用している。

【9】タミール語(インド、1965年)
   K.アッパドライ訳
   サヒタヤ・アカデミーが企画したうちの1冊。
   表紙は太陽と金閣寺を背景にした、近世風の男女の絵。

【10】中国語(全3巻、2001年)
   黄锋华訳
   本シリーズは表紙にボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」を使用している。

【11】ドイツ語(1911年)
   ミューラー・バブッシュ・マキシミリアン訳
   末松謙澄の英訳『源氏物語』を翻訳したもの。
   扉絵は傘をさした武士と女性の絵。

【12】ハンガリー語(2009年)
   ホルバート・ラースロー訳
   サイデンステッカーの英訳の重訳。
   ハンガリーでは初の完訳『源氏物語』。

【13】ハングル(1999年)
   田溶新 訳
   表紙に、植村佳菜子画・伊藤鉄也所蔵の源氏絵を切り抜いて反転したものを配している。

【14】パンジャビ語(インド、1961年)
   ジャジット・シン・アナンド訳
   サヒタヤ・アカデミーが企画した内の重訳の1冊。
   表紙は浮世絵を使用している。

【15】フランス語(1952年)
   山田菊訳
   初版は1928年。
   ウェーリー訳を底本としたフランス語では初の翻訳。

【16】ポルトガル語(全2巻、2007年)
   第1巻はリヒア・マリェイロ訳、第2巻はエリザベート・カーリ・レイア訳
   表紙は立松脩のデザインによるもの。

【17】ポルトガル語(全2巻、2008年)
   カルロス・コレイア・モンテイロ・デ・オリベイラ訳
   第1巻の表紙は江戸時代の武士と雪月花をイメージした絵、
   第2巻は「椎本」巻が題材。

【18】モンゴル語(2009年)
   オチルフー・ジャルガルサイハン訳
   国家事業のひとつとして翻訳された。
   谷崎潤一郎、与謝野晶子、瀬戸内寂聴らの訳を参照している。

【19】タイ語(全13巻、1980年)
   大和和紀訳画『あさきゆめみし』のうち、吹き出しがタイ語に翻訳されたもの。
   同じくタイ語で翻訳されたものでは、美桜せりな『源氏ものがたり』(2007年)もある。

【20】日本語(全6巻、2001年)
   大和和紀 訳画
   講談社漫画文庫の『あさきゆめみし』で、今も多くの読者を掴んでいる。

【21】日本語(全7巻、1987年)
   大和和紀 訳画
   愛蔵版として出版された『あさきゆめみし』で、和装豪華本仕立て。
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ◎源氏物語