2014年04月11日

読書雑記(96)河添房江著『唐物の文化史』

 河添房江著『唐物の文化史―舶来品からみた日本』(2014.3.20、岩波新書)を読みました。
 切り口がはっきりしているので、楽しみながら読めました。ただし、一般向けの新書としては、いつもの著者らしくない、文章のぎこちなさと硬い雰囲気を感じました。そう感じたのは、歴史にシフトした内容のためかも知れません。調査してわかったことが多すぎたからかも知れません。

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 まず、カラー口絵が8頁17点もあるので、こうした新書としては読者に対する心配りを感じました。
 雑感を記す前に、アマゾンの「カスタマーレビュー」で、秋谷高志氏が「目次」を掲載しておられるので、それを引用しておきます。これを通覧するだけで、本書の内容の多彩さがうかがえるからです。


目 次

第一章 「唐物」のはじまり
     ―正倉院と聖武天皇
唐物のルーツをたどる/『万葉集』の中の「舶来品」/日本産の「からもの」/正倉院の錦の逸品/聖武天皇の遺品あれこれ/遣唐使・吉備真備がもたらしたもの/聖武天皇の舶来趣味/聖武朝の国際関係/新羅使がもたらした舶来品/鑑真の来朝/王羲之父子の書跡/異国文化受容の糧として

第二章 百花繚乱、貴族があこがれた「異国」
     ―「国風文化」の実像
嵯峨天皇という人/「茶」の伝来/王者を彩る文物/正倉院の新羅琴/嵯峨期と渤海/渤海国使と正倉院宝物/承和の遣唐使/仁明天皇の唐物趣味/富裕層への広がり/「国風文化」の実像/黄金と「火鼠の皮衣」/『うつほ物語』と二つの交易ルート/秘色青磁と瑠璃/俊蔭が招来した唐物/蔵開以降の世界

第三章 王朝文学が描く唐物趣味
     ―『枕草子』『源氏物語』の世界から
『枕草子』を読み解く/唐の紙と青磁/定子の華やかな正装/「この世をば わが世とぞ思ふ」/道長の書物への愛着/入宋僧との交流/実資が残した記録/『源氏物語』の時代/源氏の女君たちと和漢の構図/薫物は和か漢か/『うつほ物語』と『源氏物語』/光源氏の見事な手本/「光源氏」にあこがれた人々

第四章 武士の時代の唐物
     ―福原・平泉・鎌倉
平清盛の台頭/清盛と『源氏物語』の明石一族の栄華/福原での日宋貿易/「揚州の金、荊州の珠……」/『平家納経』と『太平御覧』/世界遺産・平泉と唐物/『吾妻鏡』の記事/鎌倉将軍と北条一族/沈没船は語る/渡海僧・渡来僧の時代/金沢文庫の遺物から/兼好の唐物嫌い/『明月記』と『徒然草』

第五章 茶の湯と天下人
     ―中世唐物趣味の変遷
バサラ大名、佐々木道誉/道誉の「逸脱の美学」/足利義満と「日本国王」/朝鮮との外交/義満の文化戦略/美術品としての唐物/『君台観左右帳記』の世界/義政と書院の茶/「つくも茄子」の行方/「和漢のさかいをまぎらかす」/信長の名物狩り/「茶湯御政道」/信長御物から太閤御物へ/家康から柳営御物へ

第六章 庶民が夢みる舶来品へ
     ―南蛮物・阿蘭陀物への広がり
家康の「御分物」/南蛮貿易のはじまり/信長・秀吉の南蛮趣味/秀吉の強硬外交/家康の親善外交/南蛮貿易の終焉とオランダの台頭/鎖国体制の確立/カピタンたちの記録/「蘭癖の将軍」吉宗/朝鮮人参とサトウキビの国産化/天皇に謁見した象/庶民たちの「象フィーバー」/江戸初期の唐物屋/西鶴のまなざし/庶民でにぎわう唐物屋/阿蘭陀趣味の流行/金唐革の変貌/唐物屋の終焉

終 章 「舶来品」からみた日本文化
唐物の歴史/尚古趣味と新渡り物/和製の唐物/唐物の日本的変容/「日本の中の漢」に位置する唐物/「日本の中の和」にとりこまれる唐物/「和漢のさかいをまぎらかす」再考

 参考文献
 あとがき



 以下、章を追って、門外漢からのメモを残しておきます(妄言多謝)。

 第1章
 正倉院の宝物が、聖武天皇や嵯峨天皇を通して、国際交流の品として甦って来ました。これは、奈良から平安時代を通して、日本の対外文化外交の実態を教えてくれます。
 第2章
 お茶の伝来について、個人的にはもっと語ってほしいと思いました。これは、私が今興味を持っている事柄だからです。しかし、それはともかく、この章は『うつほ物語』に光が当てられています。あらためて読んでみようと思いました。
 第3章
 平安貴族の背後に、夥しい舶来品としての唐物があることに驚かされました。異国のもの珍しい物を求める人々の心が、読み進む内に浮かび上がってきて、楽しくなります。『源氏物語』の話でも、唐物が物語られる人物の環境を炙り出していきます。物語が、新しく読めそうです。
 第4章
 平家の話や金沢文庫のことも、興味深いものです。特に金沢文庫には、単身赴任で上京して9年もその近くに住んでいました。近所にあった金沢文庫のことなので、格別の思いで楽しくこのくだりを読みました。もっとも、ないものねだりなのですが、『源氏物語』の河内本の話には展開しません。あの大振りの河内本には、唐物の影響はないのでしょうか。また、沈没船の話も、最近ベトナムで海底から引き上げられた茶器を入手しただけに、もっと知りたいところでした。ただし、これも本書の対象を逸脱することでもあるので、またの機会を楽しみにしたいと思います。
 第5章
 室町から安土桃山時代にかけて、唐物や名物が茶の湯と政治に絡めて語られます。今お茶に興味を持っている私は、おもしろく読み進めました。しかし、お茶に興味のない方は、客観的な視点で語られていくので、退屈かも知れません。第4章ともども、華やぎの欠ける内容となり、男のオタクの話に終始しています。資料の限界があるにしても、女性がもっと姿を見せる話の展開の方が、読者も楽しめるし、著者らしさも発揮できる読み物となったように思います。調べた結果はこうでした、という余所行きの雰囲気が行文に感じられたからです。
 第6章
 唐物屋の話は、図説形式でもっと語ってほしいところです。このような内容は、新書形式では語り尽くせないもののように思われました。続編を期待したいところです。
 終章
 一時代前の文物を愛好する傾向への言及があります。尚古趣味と言われるものです。これについては、私も以前から日本人と日本文化を考える上で、おもしろい問題だと思っていました。さらに掘り下げていただけることを期待したいと思います。
 また、曜変天目の茶碗は、さらにおもしろい文化論になっていきそうです。お香も、こうした問題を考える上で、いい例となります。
 唐物・舶来品は、古くて新しい問題を提起する、日本文化を考える上での大切な素材であることが、本書によってあらためてわかりました。コンパクトな本です。しかし、収穫の多い一書となりました。
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ■読書雑記