2013年07月17日

読書雑記(72)松下幸之助『思うまま』

 松下幸之助の三部作といわれる内の、第3冊目の『思うまま』(PHP研究所、昭和46年)です。
 
 
 
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 日頃からの実践活動を通して思うことを、松下幸之助は片側1頁の分量で手短に語っています。
 短文の寄せ集めなので、具体的な話には展開しません。言いっ放しです。そのせいもあってか、話が短すぎて抽象的となり、わかりにくくなっている話が目に付き、気になりました。
 しかし、松下幸之助という不世出の人間のエッセンスは、幅広く採録されています。その意味では、松下幸之助という男の大凡を知ってから読んだ方がいいかもしれません。

 本書には、意外とあたりまえのような話が多いのです。しかし、そのあたりまえのことをあえて言葉にしているところに、その意味するものが世代を超えたところにあることがわかります。

 以下に、わかりやすい話をいくつか抜き出しておきます。
 

(1)
「とらわれない」

 世の中にはやっぱり理外の理というようなものがあるようだ。素直な心になれば、それがしだいにわかってくる。偏見がないからである。
 しかし、一つの流儀や学問にとらわれてしまうと、その範躊からしか物事が見られず、ものの実相がつかめない場合が多い。だから、いくら知識をもっていても、それにとらわれてしまっては、その知識を真に生かすことができにくいであろう。
 知識をもっていて、それにとらわれなければ、それは真に大きな力になると思うのである。(65頁)

 

(2)
「適正な大きさを」

 人間というものは、どちらかというと小よりも大を好むもので、往々にして内容のわりにかたちを大きくしやすい。また大きくすることがよいことだと思いやすい。しかし、それは非常に危険だと思う。
 たとえば商売でも、横丁で経営しているうちはある程度繁盛していたが、表通りに店を構えたとたんにつぶれたというようなことがよくある。やはり自分の実力に応じて適正な大きさを保ちつつ、さらに実力を高めてゆくということが大事であろう。(162頁)

 

(3)
「諸行無常」

 諸行無常という教えがある。今日、一般には"世ははかないものだ"という意に解釈されているようだ。しかし、これを"諸行"とは"万物"、"無常"とは"流転"、つまり万物は常に変わってゆくものであり、そのことはすなわち進歩発展なのだという意味には考えられないだろうか。
 人間の考え方も変われば社会も変わる。政治も国も変わってゆく。これみな進歩。
 つまり、諸行無常とは万物流転、生成発展、言いかえると日に新たであれという教えだと解釈したいと思う。(211頁)

 

(4)
「創造力と知恵と」

 青年には物事を興し、創造してゆく力がある。しかし、そのよし悪しを判別するためには、老人の体験を尊重することが大切であろう。
 青年の逞しい創造力と老人の体験による知恵とが適切に融合されたとき、そこに大きな成果が生まれてくるのではないだろうか。(220頁)


 本書には、前の2書に較べて「妙味」ということばが8例と多用されています。
 今このことばを私は、「えも言われぬおもしろさ」というくらいの意味で理解しています。または、松下が言う「尽きざる興味もわき、喜びも生まれてくる(137頁)」ということを表現するためのことばともなっているようです。

 以下に抜き出しておきます。
 

(1)
 人間のすることに完壁ということはない。それは神ならぬ身の人間にとっては、しょせん無理なことであろう。だから、何事をする場合にも、人一倍熱心にやるというか、全力をあげて行うことは大事だとしても、それによって九〇パーセントほどのことがうまくできれば、まずそれで結構なのだと思う。あと一〇パーセントくらい足りないというところにこそ、人間としての言うに言われぬ妙味があるのではないだろうか。(38頁)
 
(2)
 必要に迫られて事を運ぶというのも、それはそれで妙味のあるやり方であろう。(70頁)
 
(3)
 過ぎ去ってみてはじめてわかるのであって、前もって予知することはできない。そこにまた人生の妙味というものもある。(102頁)
 
(4)
 見方はいろいろあろうけれども、秀吉が天下を取ろうと意識せず、ただひたすらに日々はげんでいたからこそ天下が取れたのであって、最初から意識していたら、天下は取れなかったのではないかとも思う。そんなところに人生の妙味の一つがあるような気もするのだが、どうであろうか。(111頁)
 
(5)
 保険を売るセールスマンの中で、いちばんたくさん契約をとる人と最低の人との間には二十倍からの差があるという。保険というものはいわば各社とも同じ製品である。同じものを売っていてこれだけの差ができるのである。ここに仕事というものの妙味があると思う。(132頁)
 
(6)
 みずからの創意工夫を加え、独自の新しいものを生み出していゆく、そういうところにもまた、経営の妙味、おもしろさというものがあるといえるのではなかろうか。(153頁)
 
(7)
 要はやり方如何である。そこに商売の言い知れぬ妙味というものがあるのではなかろうか。(157頁)
 
(8)
 適度とか適正というと、何となくあいまいなようであるが、また一面まことに妙味あることばだと思う。(227頁)
posted by genjiito at 23:53| Comment(0) | ■読書雑記