2013年07月04日

読書雑記(68)父の日に贈られた『マザーテレサCEO』

 息子が父の日のプレゼントとして、ルーマ・ボース&ルー・ファウスト著『マザーテレサCEO 驚くべきリーダーシップの原則』(近藤邦雄訳、集英社、2012年4月)をくれました。子供から本を贈られるのは嬉しいものです。これまでに、糖尿病の本やボケ防止の本をもらっています。今回は、これまでとは趣を異にした本です。早速読みました。そして、予想外の感想を持つこととなりました。
 この本をくれた息子に、これから話すことのできる楽しい話題を提供してもらったことに、感謝しています。
 
 
 
130620_mother
 
 
 

 本書は、マザー・テレサの経営術や仕事術について書かれたものです。その意味では、一風変わったビジネス書です。あのマザー・テレサの姿と存在を見る目が、私の中で少し変わりました。

 本田直之氏の前文があったことで、本書にすんなりと入っていけました。
 ところが読み進む内に、著者の語り口は歯切れがよくて勇ましいのに、具体的なことが乏しいために迫力に欠ける文章であることに気付きます。その理由は、翻訳による問題ではなさそうです。

 マザー・テレサの例を引きながら、我々が組織を立ち上げたり維持する上での注意点を、著者ルーマは熱っぽく語り出します。しかし、しだいにそれが、マザー・テレサの行動原理と思惟を推測しつつ、推論の上に提示されているコメントであることに気付かされます。マザーは単に、おしゃべりのための添え物なのです。
 徐々に、最初の熱気が失せ、迫力が伝わってこなくなります。

 私が一番気になったのは、著者であるルーマがマザー・テレサのもとにいた経験を語るところです。
 「神の愛の宣教者会」での経験が、話の流れとうまく噛み合いません。「ボランティア」として働いた期間がどれほどの日時だったのかということすら、最後まで確認できませんでした。
 このことが明確でないこともあり、「私がマザー・テレサと経験したことを追体験していただけます。」(19頁)ということは、本書の内容からは無理なのです。

 次の段落の文章も、本質から逃げて躱す姿勢が顕著です。

 この本はあなたにリーダーシップの原則を授けるものです。あなたが個人として、あるいは仕事で、挑戦を試みる立場にあるのなら、毎日、その原則を生かすことができるでしょう。紹介する原則を自分のものにし、常に応用していけば、あなたの人生も、組織もポジティブに変化していくはずです。しかし、マザー・テレサがどのように「神の愛の宣教者会」を運営してきたのかについて分析することを意図してはいません。分析は別の本の仕事であり、他の著者にお任せします。
 あなたにインスピレーションを与える本であり、リーダーシップの八つの原則についてのシンプルなストーリーがあるだけです。八つの原則こそが、マザー・テレサが設立した「神の愛の宣教者会」を世界的な成功へと導いたものなのです。
 では、マザー・テレサへの旅をお楽しみください。(34頁)


 マザー・テレサと直接共有した時間が貴重だったことは書かれています。しかし、それがどれほどの長さであり、どのような密度だったのかは、ついに記されないままです。人間と人間としての接点に、まったくと言っていいほど具体性がないのです。

 本書には、行動を起こすための3つの要点として、「感情」「ファイナンス」「オペレーション(手順)」が提示されています。しかし残念なことに、本書では2つ目の「ファイナンス」の意味が伝わってくるだけで、それ以外は準備不足のままに刊行されてしまったと思われます。

 また、マザー・テレサの施設でのこととして、著者は次のような驚くべき発言をしています。

 私は間違っていました。そのための準備などまったくできていなかったのです。(中略)自分と同じ世界のなかで多くの人が苦しみながら生きているという事実を受け入れることができなかったのです。(83頁)


 これでは、一体マザー・テレサからどのような本質的な核心を学んだと言うのでしょうか。こんな無責任な話を読まされる読者は、たまったものではありません。

 本書は、自分のビジネスに対する持論を展開するために、マザー・テレサを利用したに過ぎません。マザー・テレサに関する具体的な事例が乏しいのがその証拠です。これでは、マザー・テレサこそいい迷惑です。

 稲盛和夫、本田宗一郎、松下幸之助などの本を読んだ後なので、本書を読み進む内に、これが非常に浅薄なものに思えるのです。
 情報収集に始まり、何かと調査不足であり、構想も練られていません。ましてや、論証過程などは皆無です。経験談は自慢話の域を出ていません。理性に訴える手法ではありません。それが、明快さに欠ける印象をもたらすのです。

 著者は情に流されてしまっています。あまりにも、感情で表現し過ぎです。もっとマザー・テレサの行動なり言葉で、読者に迫った方がよかったと思います。その前に、もっとマザー・テレサを理解してから書くべきでした。
 終盤に、そうした気配は感じられます。しかし、時すでに遅し、という状態です。

 人間の大きさに思い及ばず、自分のレベルに引き込んだために、結果的に内容が矮小化されてしまいました。
 また、共著にしようとしたためか、コラムとして間に挟まれたルーのコメントも練られておらず、思いつきのネタを投げかけるだけで、全体の話の流をぶつ切りにしています。

 息子から贈られた本を真剣に読んだお陰で、一書としては多くの不備を感じながらも、失敗学の例を楽しみ、さらにはマザー・テレサにこれまで以上に興味を持つようになりました。【1】
posted by genjiito at 22:58| Comment(0) | ■読書雑記