2013年06月01日

館長科研の研究会で研究報告

 今西祐一郎・国文学研究資料館館長の科研研究で、本年度第1回目の研究会が昨日ありました。
 プログラムは以下の通りでした。


(1)〈ご挨拶〉今西祐一郎
(2)相田満「知識の基層をなす漢字オントロジをめぐる考察と分析─『古事記』の場合─」
(3)阿部江美子「国文研蔵『夫木和歌抄』の写本・版本・濱口本の漢字・かな使用比率について(和歌)」
(4)伊藤鉄也「国文研蔵『夫木和歌抄』の写本・版本・濱口本の漢字・かな使用比率について(詞書・左注)」
(5)阿部江美子「榊原本の漢字・かなの使用比率」
(6)阿部江美子「榊原本の影印本とウエブ版における欠脱画像について」
(7)阿部江美子・淺川槙子・伊藤鉄也「なんでも鑑定団に出品された『源氏物語』の本文」


 相田先生の発表は、『古事記』と『千字文』をめぐる漢字の使用に関する発表でした。膨大な資料を駆使しての、詳細な研究の成果です。

 阿部さんと私は、『夫木和歌抄』における写本・版本・濱口本相互の漢字・かなの使用比率を調査したことを踏まえ、その結果を報告しました。これは、この研究会ではこれまでに『源氏物語』を中心とした物語の文字を扱ってきたので、今度は和歌の傾向をみようとしたものです。
 文字の使用比率の調査に関しては、神田久義君が作成したエクセルのマクロを活用しています。
 『夫木和歌抄』の本文は、「国文学研究資料館の本文共有化のプロジェクト」が刊行した、『平成17年度研究成果報告書 夫木和歌抄データベース[DVD]』(平成18年3月、国文学研究資料館)所収のデータを活用しました。

 これまでの本科研での調査結果では、鎌倉時代から室町時代にかけては漢字よりもかなが多く用いられていることが、すでに何度も確認されています。古い写本では、漢字が2割前後という傾向が顕著でした。室町から江戸時代の版本になると、それが逆転して、漢字が8割にものぼります。そして、江戸時代の後期の版本では、また漢字の使用比率が低くなるのです。

 今回の調査では、『夫木和歌抄』もほぼ同じ結果でした。ただし、和歌の部分はそうであっても、左注に関しては、室町時代に写されたと思われる写本の濱口本だけは、漢字とかながほぼ同じ比率を示したのです。この特殊な現象に関する原因や理由は、まだわかりません。今後とも、調査を進めていきたいと思います。

 最後に、先日のテレビ「なんでも鑑定団」(平成25年5月21日放送)に出品された『源氏物語』の本文に関して、それが日本大学蔵の三条西家証本にほぼ一致するものであることを報告しました。
 これは、テレビに映し出された写本の本文部分を、手持ちの本文データベースに当てはめて確認したものです。テレビ画面に映し出された写本の墨付き部分の映像をもとに、「桐壺」「帚木」「朝顔」「柏木」「鈴虫」を、研究仲間の淺川槙子さんが丹念に読み取った資料が、その基になっています。

 この日大本とテレビで紹介された『源氏物語』の本文を校合した結果を、淺川さんが次のようにまとめてくれました。昨日の研究会では時間の関係で、この資料は提示しませんでした。記録として、ここに掲載します。

 この番組を録画なさっていた方で、以下の翻字の不備に気づかれた方は、ぜひお知らせいただければ幸いです。


■「なんでも鑑定団に出品された『源氏物語』の本文について」淺川槙子■

 ☆三条西家本との比較

 上段の【な】が鑑定団に出た本、下段の【三】が日本大学蔵三条西家本。
 三条西家本は『影印資料 日本大学蔵源氏物語』(八木書店、1994年)を使用した。
 漢字とかなの違いは[ ]で、異文や表記の違いは《 》で表示した。

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 「桐壺」

◎冒頭一丁オ
@【な】いつれの御時にか女御更衣あまたさふ
 【三】いつれの御時にか女御更衣あまたさふ

A【な】らひ給けるなかにいとやむことなきゝ
 【三】らひ給けるなかにいとやむことなきゝ

B【な】はにはあらぬかすくれてときめき給ふ
 【三】はにはあらぬかすくれてときめき給ふ

C【な】ありけりはしめよりわれはとおもひあか
 【三】ありけり・はしめよりわれはとおもひあか

D【な】り給へる御かた/\めさましきものに
 【三】り給へる御かた/\めさましきものに

E【な】をとしめそねみ給おなしほとそれより
 【三】をとしめそねみ給おなしほとそれより

F【な】下らうの更衣たちはましてやすから
 【三】下らうの更衣たちはましてやすから

G【な】すあさゆふのみやつかへにつけても人
 【三】すあさゆふのみやつかへにつけても人

H【な】の心をうこかしうらみをおふつもりに
 【三】の心をうこかしうらみをおふつもりに

I【な】やありけ《ん》いとあつしくなりゆき物
 【三】やありけ《む》いとあつしくなりゆき物

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 「帚木」

 五月雨の夜の宿直に、女の品定めが始まる場面「右のおとゝのいたはりつゝかしつき給ふすみかはこの君もいとものうくしてすきか」の後から。

◎見開き一枚目
@【な】ましきあた人なりさとにてもわかかたの
 【三】ましきあた人なりさとにてもわかかたの

A【な】しつらひまはゆくして君のいて
 【三】しつらひまはゆくして君のいて

B【な】入し給にうちつれきこえ[たまひ]つゝ
 【三】入し給にうちつれきこえ[給]つゝ

C【な】よるひるかくもむをもあそひをもも
 【三】よるひるかくもむをもあそひをもも

D【な】ろともにしてをさ/\たちをくれ
 【三】ろともにしてをさ/\たちをくれ

E【な】すいつくにてもまつはれきこえ[給]ふ
 【三】すいつくにてもまつはれきこえ[たま]ふ

F【な】ほとにをのつからかしこまりもえをか
 【な】ほとにをのつからかしこまりも《え》をか
        (「え」ヲ見せ消ちノ後「本無」)

G【な】す心のうちにおもふことをもかくしあ
 【三】す心のうちにおもふことをもかくしあ

H【な】へすなんむつれきこえ給けるつれ/\と
 【三】へすなんむつれきこえ給けるつれ/\と
 
I【な】ふりくらしてしめやかなるよひの雨に
 【三】ふりくらしてしめやかなるよひの雨に

◎【次の丁】
@【な】殿上にも《お》さ/\人すくなに御とのゐ所
 【三】殿上にも《を》さ/\人すくなに御とのゐ所

A【な】もれいよりはのとやかなる心ちするに
 【三】もれいよりはのとやかなる心ちするに

B【な】おほとなふらちかくてふみともなと[み]
 【三】おほとなふらちかくてふみともなと[見]

C【な】給ちかきみつしなる色々のかみなる
 【三】給ちかきみつしなる色々のかみなる

D【な】ふみともをひきいてゝ中将わりなくゆ
 【三】ふみともをひきいてゝ中将わりなくゆ

E【な】かしかれはさりぬへきすこしは[み]せん
 【三】かしかれはさりぬへきすこしは[見]せん

F【な】かたはなるへきもこそとゆるし給はね
 【三】かたはなるへきもこそとゆるし給はね

G【な】はそのうちとけてかたはらいたしと
 【三】はそのうちとけてかたはらいたしと

H【な】おほされんこそゆかしけれをしなへたる
 【三】お《ほ》されんこそゆかしけれをしなへたる
    (「ほ」ノ後ニ「しめ」ト補入)

I【な】おほかたのはかすならねとほと/\に
 【三】おほかたのはかすならねとほと/\に

◎見開き二枚目
 頭中将の言葉である、「女の『これはしも』と、難つくまじきは難くもあるかな」と、やう/\なん、見給へ」の後から。

@【な】しるたゝうはへはかりのなさけにてはし
 【三】しるたゝうはへはかりのなさけにてはし

A【な】りかきおりふしのいらへ《は》心えてうちし 
 【三】りかきおりふしのいらへ心えてうちし

B【な】なとはかりすいふんによろしきもおほ 
 【三】なとはかりすいふんによろしきもおほ

C【な】かりと見給ふれとそもまことにそのかた
 【三】かりと見給ふれとそもまことにそのかた

D【な】をとりいてんえらひにかならすもるまし
 【三】をとりいてんえらひにかならすもるまし

E【な】きはいとかたしやわか心えたることはか
 【三】きはいとかたしやわか心えたることはか

F【な】りを[を]のかしゝ心をやりて人をはおと
 【三】りを[お]のかしゝ心をやりて人をはおと

G【な】しめなとかたはらいたき事おほかりおや
 【三】しめなとかたはらいたき事おほかりおや

H【な】なとたちそひもてあかめておひさき
 【三】なとたちそひもてあかめておひさき

I【な】こもれる[まと]の中なる[程]はかたかと
       (「まと」ニ合点アリ)
 【三】こもれる[窓]の中なる[ほと]は《たゝ》かたかと

◎【次の丁】
@【な】きゝつたへて心をうこかすこともあめ
 【三】きゝつたへて心をうこかすこともあめ

A【な】りかたちをかしくうちおほときわかや
 【三】りかたちをかしくうちおほときわかや

B【な】かにてま《か》るゝ事なき程はかなきすさ
 【三】かにてま《き》るゝ事なき程はかなきすさ

C【な】ひをも人まねに心をいるゝこともあるに
 【三】ひをも人まねに心をいるゝこともあるに

D【な】をのつからひとつゆへつけてしいつる事も
 【三】をのつからひとつゆへつけてしいつる事も

E【な】ありみる人をくれたるかたをはいひかく
 【三】ありみる人をくれたるかたをはいひかく

F【な】しさてありぬへきかたをはつくろひて
 【三】しさてありぬへきかたをはつくろひて

G【な】まねひいたすにそれしかあらしとそら
 【三】まねひいたすにそれしかあらしとそら

H【な】にいかゝはをしはかり思くたさんまことかと
 【三】にいかゝはをしはかり思くたさんまことかと

I【な】[み]もてゆくにみをとりせぬやうはなく
 【三】[見]もてゆくにみをりせぬやうはなく

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 「朝顔」

◎冒頭 一丁オ
@【な】齋院は御ふくにておりゐ[給]にき
 【三】齋院は御ふくにておりゐ[たまひ]にき

A【な】かしおとゝれいのおほしそめつる[事]
 【三】かしおとゝれいのおほしそめつる[こと]

B【な】たえぬ御くせにて御とふらひなと
 【三】たえぬ御くせにて御とふらひなと

C【な】いとしけう[聞]え[給]宮わつらはし
 【三】いとしけう[きこ]え[たまふ]宮わつらはし

D【な】かりし事をおはせは御[かへり]も[打]と
 【三】かりし事をおはせは御[返]も[うち]と

E【な】けてきこえ給はすいとくち
 【三】けてきこえ給はすいとくち

F【な】おしとおほしわたる[九月]になりて
 【三】おしとおほしわたる[なか月]になりて

G【な】[桃]その《の宮》にわたり《に》給《ひ》ぬるを
 【三】[もゝ]その《ゝ宮》にわたり給ぬるを

H【な】聞て女五の宮そこにおはすれは
 【三】きゝて女五の宮《の》そこにおはすれは

I【な】そなたの御とふらひにことつけて
 【三】そなたの御とふらひにことつけて

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 「柏木」

◎冒頭 一丁オ
@【な】えもんのかんの君かくのみなやみ
 【三】えもんのかんの君かくのみなやみ

A【な】わたり給[事]猶をこたらてとしも 
 【三】わたり給[こと]猶をこたらてとしも

B【な】かへりぬおとゝきたのかたおほし
 【三】かへりぬおとゝきたのかたおほし

C【な】なけくさまを[見]たてまつるに
 【三】なけくさまを[み]たてまつるに

D【な】しゐてかけはなれな《む》いのちのかひ
 【三】しゐてかけはなれな《ん》いのちのかひ

E【な】なくつみおもかるへき事を[おも]ふ
 【三】なくつみおもかるへき事を[思]ふ

F【な】心は[心]としてまたあなかちにこの
 【三】心は[こゝろ]としてまたあなかちにこの

G【な】世にはなれかたくおしみとゝめま
 【三】世にはなれかたくおしみとゝめま

H【な】ほしき身かはいはけなかりしほと
 【三】ほしき身かはいはけなかりしほと

I【な】より[思]ふ心ことにてなに事をも人
 【三】より[おも]ふ心ことにてなに事をも人

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 「鈴虫」

◎冒頭 一丁オ
@【な】なつころはちすの花のさかりに入道の
 【三】なつころはちすの花のさかりに入道の

A【な】姫[宮]は御ち仏ともあらはし給へるくや
 【三】姫[みや]は御ち仏ともあらはし給へるくや

B【な】うせさせ《給》このたひは《お》とゝの[君]の
 【三】うせさせ《給ふ》このたひは《を》とゝの[きみ]の

C【な】御[こゝろ]さしにて御ねんすたうのく
 【三】御[心]さしにて御ねんすたうのく

D【な】ともこまかにとゝのへさせ[給]へるをや
 【三】ともこまかにとゝのへさせ[たま]へるをや

E【な】かてしつらはせ《給》はたのさまなと
 【三】かてしつらはせ《たまふ》はたのさまなと

F【な】なつかしう[心]ことなるからの錦を
 【三】なつかしう[こゝろ]ことなるからの錦を

G【な】えらひぬはせ[給]へりむらさきの[上]そいそ
 【三】えらひぬはせ[たま]へりむらさきの[うへ]そいそ

H【な】きさせ給ける[花]つくえのおほひなとの
 【三】きせさせける[はな]つくえのおほひなとの
  (前カラ二文字目「せ」ノ後ニ「給」ト補入)

I【な】をかしきめそめもなつかしうきよら
 【三】をかしきめそめもなつかしうきよら


 
 その後、立川駅前で懇親会がありました。いつものように10名以上もの参加者で、日頃はあまり突っ込んだ話ができないこともあり、こうした場では貴重な情報交換ができます。

 懇親会を散会した後、私は立川駅前から夜行バスで京都へ向かい、今朝、京都駅前に着きました。
 自宅に帰る前に、下鴨神社へお参りをしました。

 下鴨神社は私の大好きなところです。ご町内下鴨の氏神さまということもあり、散策の途次によく立ち寄ります。本殿と干支の社をお参りしています。
 今朝も、NPOのことや、現在編集を進めている数冊の本のことなど、いろいろと神さまに報告しました。賀茂の御祖の神さまに、どこまで伝わっているのかはともかく、何でも理解して見守ってくださる神さまだと思っているので、こうしてフラリと来ては手を合わせています。

 早朝の境内には、数人しか人がいません。
 朝日を浴びる楼門は、気持ちを覚醒させてくれます。
 
 
 

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 楼門の脇に建つ橋殿の下には、みたらし池から奈良の小川に注ぐ水面に、かすかに回廊の塀が映っていました。
 
 
 

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 みたらし池の前に架かる輪橋は、尾形光琳の絵のモデルになった梅で有名です。
 これも、私の好きな風景です。
 
 
 

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 境内をぐるりと左回りに見て、帰り路の西方向左側に舞殿・神服殿・鳥居が、右手に授与所・葵生殿(結婚式場)が見えます。
 ここに来ると、昨年の3月、娘たちの結婚式の折、この葵生殿に入る直前に雨が奇跡的に上がったことを思い出します。
 
 
 

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 相変わらず慌ただしい日々です。
 しかし、こうして充実した毎日が送れることに、ありがたいことだと感謝しています。
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ■古典文学