2013年01月30日

井上靖卒読(157)「凍れる樹」「洪水」「面」

■「凍れる樹」
 辰平は、親一人子一人で育てた娘の婿が、どうも気にくわない、何もかも気に入らないのでした。点をつけると10点満点の4点だと。
 一人になったので、気分転換に東京へ旅をすることにしました。そして、一人の女と三日間、新しい眼で世の中を見ることになりました。終始、前向きな生きざまを描くところは、井上らしさを醸し出しています。自宅に帰ると、これまでとはまた別の物の見方かで生きていくのであろうことが、よくわかります。東京での気ままな日々と、その前後とのつながりが、どうもしっくりとは溶け合っていないような印象が残りました。【2】
 
 
初出誌:婦人画報
初出号数:1959年6月号
 
講談社文庫:北国の春
井上靖小説全集27:西域物語・幼き日のこと
井上靖全集6:短篇6
 
 
 
■「洪水」
 時は中国の後漢献帝(紀元189〜220年)の末期のことです。舞台はシルクロードの敦煌から玉門関を出た、タクラマカン沙漠の東部です。月光の中で女が語る設定がいいと思います。月光の下で、濁流と奮闘するシーンもいいと思いました。
 大自然の営みの雄大さが、人間のなすことをすべて飲み込むようにして無にする様子が、丹念に綴られています。
 最後は、洪水に立ち向かう人間の虚しさを描きます。自然と対峙することの無意味さが伝わってきます。【4】
 
 
初出誌:声
初出号数:1959年7月号
 
新潮文庫:楼蘭
旺文社文庫:洪水・異域の人 他八編
井上靖小説全集16:蒼き狼・風濤
井上靖全集6:短篇6
 
 
 
■「面」
 冒頭で、修学旅行の実態を描き、みごとにそれを批判的な視点で語り出します。修学旅行生の心理も、巧みに描出されています。話は、昭和13、14年のことです。
 静岡の女学校に通う景子は、関西に修学旅行に行きます。琵琶湖や石山寺へ。そして京都では、京極で般若の面を買いました。それが、奈良、大阪、神戸と回る内に、しだいに負担になってきました。友達が気持ち悪がりだしたからです。それを手放してくなり、大阪の遠縁の家に足を向けました。結局はそこに面を置いて帰ることになります。しかし、その事情が、後々までずっと誰にも語らないことになるのでした。【2】
 
 
初出誌:婦人画報
初出号数:1959年12月号
 
集英社文庫:三ノ宮炎上
講談社文庫:北国の春
潮文庫:傍観者
井上靖小説全集27:西域物語・幼き日のこと
井上靖全集6:短篇6
 
 
 
〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 00:12| Comment(0) | □井上卒読