2013年01月11日

井上靖卒読(154)「あした来る人」「その人の名は言えない」「どうぞお先に」

 今回とりあげた「あした来る人」と「その人の名は言えない」は、共に短編小説です。しかし、長編小説でも同名の作品があります。そして、共に映画化されています。
 各項目の末尾に、これまでに「井上靖卒読」として書いた記事へのリンク先を示してあります。
 また、「どうぞお先に」も同名の作品があります。それについては、後日紹介する予定のものです。
 
 
■「あした来る人」
 長編小説『あした来る人』の後日談風に展開します。本編を知らなくても、充分に人間の関係とそれぞれの生きざまがうかがえます。短い中に、人間が点描されています。『井上靖全集 第5巻』(1995年9月、新潮社)に初めて収録されたものです。【2】
 
 
初出紙:朝日新聞
掲載日:1956年1月3日(朝刊)
連載回数:1回
 
井上靖全集5:短篇5

※昭和28年以後に朝日新聞に連載された小説4編のうちから選ばれたもので、連載された小説の続きを作者がコメント風に書いた「小説その後」の1つ。長編『あした来る人』は1955年2月に朝日新聞社より刊行されている。
(『井上靖全集 第5巻』巻末の解題による)
 なお、長編小説『あした来る人』については、本ブログ【3.1-井上靖卒読】「井上靖卒読(21)『あした来る人』」(2007/12/14)を参照願います。
 
 
■「その人の名は言えない」
 自分が小説の中で描いた女主人公に、現実の世界である銀座で出会った、という設定がおもしろいところです。読者との距離が微妙で、巧みな展開となっているのです。虚構と現実をうまく使い分けて、物語の楽しさを感じさせてくれます。興味深い掌編小説の1つとなっています。本作も『井上靖全集 第5巻』に初めて収録されたものです。【4】
 
 
初出紙:新大阪
初出日:1956年2月4日
 
井上靖全集5:短篇5
 
※なお、長編小説『その人の名は言えない』については、本ブログ【3.1-井上靖卒読】「井上靖卒読・再述(5)『その人の名は言えない』」(2011/2/5)を参照してください。
 
 
■「どうぞお先に」
 人が持つ、人と自分を比べることで行動を規制する様子が、子どもの目と心を通して語られています。
 小学校の運動会のことや中学での鳩のレースのことなど、いずれも主人公には自分が同級生の戸石に勝った実感がないのです。すべて、父の上役の子である主人公に譲ったものだったからです。高校で同級となります。そして、一人の女性をめぐって対立します。そこでも、結婚後にも勝利感がないのです。
 昭和19年に満州から本土に引き揚げる船の中で、主人公夫婦は戸石と出会いますそして、船が転覆する時、彼は「どうぞお先に」と、生きる席を譲ってくれたのです。人間の立ち位置と、その人が持つ運命というものを、実にうまく語った秀作だと思います。【5】
 
初出誌:小説新潮
初出号数:1956年3月号
 
講談社文庫:北国の春
井上靖全集5:短篇5

※これと同名の作品に「どうぞお先に!」があります。
 これは、『きりん』(1948年9月号)に発表されたもので、『井上靖全集 第7巻 短篇7・戯曲・童話』に収録されています。
 
 
 
〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 22:25| Comment(9) | □井上卒読