2012年12月19日

読書雑記(57)山本兼一『ええもんひとつ ―とびきり屋見立て帖』

 山本兼一の〈とびきり屋見立て帖〉の第2冊目となる、『ええもんひとつ ―とびきり屋見立て帖』(山本兼一、文藝春秋、2010年6月、文春文庫、2012年12月)を読みました。前作の『千両花嫁 とびきり屋見立て帖』(山本兼一、文藝春秋、2008年5月)を読んだ後、昨日アップした「読書雑記(56)」の読後感では、「今後のシリーズ化が楽しみな作品集です」と記しました。第1冊目がおもしろい作品集だったからです。
 しかし、この第2冊目には失望しました。作品の評価は、人により、読み方によります。あくまでも、私の期待は裏切られました。はんなり感と共に、スピード感と時代背景のおもしろさを、引き続き楽しみにしていたからです。もちろん、古い道具に対するものの見方や知識が得られたことは、読んだからこそ知ることができたこと、と言えます。
 それにしても、本書に収録された6作品よりも、巻末の杉本博司氏の「解説 骨董の魔性」が格段におもしろく、本を綴じてから変な思いに囚われました。本編よりも解説の方の出来がずっとよかったからです。本書の中では、5番目の「花むすび」だけが気に入りました。しかし、それもこの「解説」のおもしろさには及びません。
 とにかく、興味深い作家なので、第3作に期待しましょう。
 私の読書は、移動する電車の中が多いのです。そのため、文庫本を持ち歩きます。この『ええもんひとつ』も、文庫化されて店頭に並ぶやいなや、昨日すぐに入手し、早速読んだものです。
 次は、第3作である『赤絵そうめん―とびきり屋見立て帖』(山本兼一、文藝春秋、2011年11月)の文庫化を待って読みたいと思っています。そして、解説の出来具合も楽しみにしましょう。

■「夜市の女」
 時は文久三年(1863)。梅田雲浜の漢詩が書かれた扇子と茶碗が150両と高値で競られました。それを落とした女の素性が話題となります。それが、実は倒幕と関係があったというのです。興味深い話です。しかし、物語は道具屋夫婦に引き戻され、盛り上がらないままに終わりました。【1】
 
初出誌:『オール讀物』2008年9月号
 
 
■「ええもんひとつ」
 話題は、香道用の香箱です。坂本龍馬の登場です。龍馬に、道具を買う時の極意を聞かれたゆずは、「一番ええもんひとつだけ買うこと」だと答えます。背後に伽羅の香りがします。しかし、話としては、香をネタにした小話で終わっています。【1】
 
初出誌:『オール讀物』2009年2月号
 
 
■「さきのお礼」
 道具屋の日常生活や、雑談に終始しています。この章をあえてこの本の中に置いた意味が、私にはわかりません。【1】
 
初出誌:『オール讀物』2009年8月号
 
 
■「お金のにおい」
 後半の壺の話はわかりやすいのに、全体としては盛り上がりません。【1】
 
初出誌:『オール讀物』2009年4月号
(「金のにおい」を改題)
 
 
■「花むすび」
 とびきり屋が、桂小五郎の変装と裏の寺へ逃げるための場所として提供されます。そして、預かった書状をめぐり、芹沢鴨の前で息もつかせぬ展開となります。紐をきれいに結ぶ話が、大文字の送り火とともに閉じられます。うまくまとめています。作者は、勝負ごとの話になると、活き活きと筆が冴えてくるようです。この前の4作はどうした、と言いたくなります。【5】
 
初出誌:『オール讀物』2009年11月号
 
 
■「鶴と亀のゆくえ とびきり屋なれそめ噺」
 結婚前のことへと、時が遡ります。狩野永徳の亀図をめぐる話です。
 道具商「からふね屋」の二番番頭だった真之介は、仕えていた店の娘ゆずとの結婚をかけた、命がけの勝負をしかけます。相手は、茶道の東西二つの家元です。鶴亀の字句が問題の品なのです。ただし、その軸が持つ真相を知った真之介は驚愕するのでした。おもしろい話です。しかし、話の内容と登場人物の設定や描写に、言いしれぬ下品さを感じました。話を作ることに必死になり、温かい眼で人を見ることができなかったようです。
 骨董の世界は奥が深いことでしょう。闇もあることでしょう。どうも、この第2冊目に収録された作品には、人の温もりが欠けているようです。【2】
 
初出誌:『オール讀物』2008年6月号
posted by genjiito at 23:43| Comment(0) | ■読書雑記