2012年08月27日

立川での館長科研の研究会に参加

 今西祐一郎・国文学研究資料館館長の科研費研究は、今年で3年目です。その第2回研究会が、本日午後、立川の国文学研究資料館で開催されました。
 今朝、新幹線で京都から上京してきました。

 プログラムは以下の通りです。


(1)〈ご挨拶〉今西祐一郎(国文学研究資料館・館長)
(2)〈研究発表〉中村一夫(国士舘大学・教授)「仮名文テキストの文字遣」
(3)〈研究発表〉坂本信道(京都女子大学・教授)「「无」文字をめぐる問題」
(4)〈研究発表〉海野圭介(国文学研究資料館・准教授)「二つの方丈記:ひらがな/カタカナのエクリチュールとリベラトゥラ」
(5)〈研究発表〉伊藤鉄也(国文学研究資料館・教授)「『和泉式部日記』の文字表記」
(6)連絡及び打ち合わせ


 今回の研究会は、来月9月24日にイタリアのフィレンツェ大学で開催される、今西科研第1回国際研究集会の予行演習を兼ねています。

 イタリアの方にわかっていただけるような発表を目指して、いろいろなアドバイスを受ける場ともなります。

 今西館長の挨拶のあと、まず中村一夫氏の「仮名文テキストの文字遣」と題する発表です。

 これは、『源氏物語』の各種書写本における漢字使用率に関する報告でした。『源氏物語』54巻全体を見通しての、大きな視野からの研究発表です。今後につながる貴重な指摘が数多くなされました。
 鎌倉期の古い写本ほど漢字の使用率が低い、という確認のまとめとして示された次の「時代別漢字使用率」は、いろいろと考えさせられるものとなっています。

    平均  最大  最小
全体   8.8
江戸  12.7  15.0   7.8
室町   9.3  15.5   4.7
鎌倉   6.2   9.9   2.8

 
 
 続いて、坂本信道氏の「「无」文字をめぐる問題」です。

 「も」の字母に「无」はないとする論文があるとのことです。角紀子氏「「も」の字母に「无」はない─国語学・古筆学の視点から─」(『書学書道史研究11号』2001年9月)がそれです。ただし、この論文の評価は難しいようです。私も、後でこれを読んでみたいと思います。
 定家は尊経閣文庫本『土左日記』を書写するにあたり、「も」を「无」ではなくて「毛」に書き改めているそうです。いろいろな用例を検討された上で、当時の人がどう書き分け、読み分けて区別していたのかは、今もってはっきりしない、という結論でした。
 この問題は、すでに解決していると思っていました。意外な指摘が数多くなされました。
 
 
 海野圭介氏は「二つの方丈記:ひらがな/カタカナのエクリチュールとリベラトゥラ」と題する発表です。

 特に、漢字平仮名交じりのテキストのありようについては、興味深い指摘がなされました。『三宝絵』は、女性のために、漢字平仮名交じりのテキストが最初だったそうです。『方丈記』の伝本も前田家本は平仮名交じりの書写本で枡形本なので、一見『源氏物語』などと区別がつきにくいものだという指摘は、おもしろく聞きました。大福光寺本『方丈記』は漢字カタカナで書かれているからです。書写の問題と書型の問題からの視点も、非常に新鮮でした。
 副題にある「リベラトゥラ」とは、本の内容と形を合わせて評価する、という意味だそうです。形としての本の作品性に関する概念です。最近流行していることばだそうです。
 質疑応答の中で、『方丈記』が日記や物語として捉えると、さらにおもしろくなるという指摘がなされました。
 
 
 最後は私でした。「『和泉式部日記』の文字表記」と題する発表です。

 『和泉式部日記』は4種類の本文が伝わっています。今日は、それぞれの写本の文字表記に関して、漢字と仮名の使い分けの分別をした後、その使用文字の傾向を確認することから始めました。そして、漢字と仮名の写本毎の使われ方の違いが明らかになる例を、丁寧に指摘していきました。
 また、本文異同の視点から、漢字と仮名表記に起因する例を取り上げ、異文の位相の今後への提言もおこないました。
 具体例として、「そら」「空」「浦」の本文異同は、「そら」の「そ」が「う」と同じ字形として書かれることから来るものであることなどを示しました。
 写本に書かれた文字の字母にまで遡っての調査研究は、まったくといっていいほどなされていません。その意味では、新しい切り口を提示できたかと思います。
 ただし、このネタがイタリアで理解してもらえるかというと、それは疑問です。写本などは、見たこともないでしょうから。また、平仮名にいくつもの種類があり、それが漢字から来ていることも、理解してもらうには時間がかかりそうです。これから、発表の工夫を考えます。

 連絡と打合せでは、実施担当者である私から、イタリアでの国際集会の確認をし、プログラムを確定しました。

 研究会が終わってから、立川駅前のいつものお店で懇親会を開きました。10人で賑やかに、楽しい話になっていきました。硬軟取り混ぜての話題が飛び交います。幹事役も大変ですが、きさくなみなさんなので、いつも充実した懇親会となります。

 お開きになった後、私は立川駅から夜行バスで京都に向かいます。懇親会場からすぐの立川駅北口から、神戸・大阪・京都行きの夜行バスが出ているのです。これは便利です。
 今日のブログは、その夜行バスの車中からアップしています。
 今、中央高速道を西に向かって軽快に走っています。
 それでは、車内の消灯時刻なので、おやすみなさい。
posted by genjiito at 23:22| Comment(0) | ■古典文学