2010年12月24日

クリスマスイブに研究会

 年の瀬も押し詰まり、今日はもうクリスマスイブです。
 そんな日でも、国文学研究資料館では研究会があります。全国各地から研究仲間が集まります。今日は、40人ほどだったでしょうか。
 外国のお祝いごとなどには関係なく、こうしてスケジュールはいっぱいになります。

 今日は、基幹研究「王朝文学の流布と継承」というプロジェクトの研究会です。
 ちょうど1年前に、私はこの会で研究発表をしました。あのときも、1年最後の金曜日でした。
 昨年の私の発表題目は、「『源氏物語』における傍記の本行本文化」でした。昨年から今年にかけては、研究発表をたくさんこなしました。この時の内容を活字にしたのかどうか、今すぐに思い出せません。それほど、仕事をやりっぱなしにしています。年末から年始にかけて、これらの整理をする必要があります。

 さて今日は、室町時代を中心とする能・狂言、幸若舞曲、お伽草子などを研究テーマとなさっている小林健二先生の研究発表です。
 その概要を引用します。
 
 

【発表題目】
 「能《源氏供養》制作の背景 −石山寺に於ける源氏供養の可能性」

【発表要旨】
 能《源氏供養》は、安居院聖覚作の「源氏物語表白」をもとに作られていることが早くから指摘されていたが、伊藤正義氏により表白そのものというよりは物語化された『源氏供養草子』に拠っているとの考察がなされた。
 たしかに能と草子を比べると基本的構造は相似するものの、能が石山寺を舞台とすることや、シテの紫式部が観音の化身であったとする結末など相違点も有する。
 本発表では、能が制作される背景に石山寺における観音と紫式部を一体とする信仰があり、その思想に基づく源氏供養がなされていた可能性について報告したい。

 
 
 私にとっても非常に興味深い内容で、最後までジーッと聴き入っていました。
 小林先生はこの発表のために、昨日は急遽わざわざ石山寺まで図像の確認に行かれたとのことです。それだけで、拝聴する価値は十分にあります。

 いずれ活字にして公表なさるので、ここでは私が興味を持ったところを、自分の備忘録として書き残しておきます。

(1)『源氏供養草子』の諸伝本について
 9種類の伝本を、ABCDの4系統に分けるのが従来の説だそうです。それに対して小林先生は、唱導色が強いD系統(国立歴史民俗博物館蔵本)を〈甲類〉とし、それ以外を物語化されたものとして〈乙類〉とする私見を示されました。と聞きました。
 現在私は、『源氏物語』の本文を〈甲類〉と〈乙類〉の2分別する私案を提示しているところなので、そのネーミングに興味を持ちました。〈甲類〉〈乙類〉という呼び方については、上代特殊仮名遣いのイメージが強いとの意見をいただいています。しかし、今回の小林先生の発表を聞く限りでも、〈甲類〉〈乙類〉でも違和感がないように思いました。『源氏物語』の本文を2分別する名称として、もう少し〈甲類〉〈乙類〉を使ってみようと思います。

(2)「水月観音」の信仰というものを初めて知りました。これは、現代にまで脈々と流れる、物語の中に描かれる月と水に関する描写を支える、日本の伝統文化の因子になっていないか、と勝手に想像を逞しくして聞いていました。多分に、井上靖などの作品を想起してのものです。水上勉の作品なども該当します。そうでなくても、これはこれで、おもしろいヒントをもらいました。

(3)石山寺蔵の「紫式部聖像」は、室町時代に石山寺の源氏の間で行われた法会、礼拝の時に掛けられたもので、源氏供養が行われた具体例と言えないか、という意見は、非常に興味深いものでした。私の意識の中でも、場所とモノとカタリが有機的に結びつきました。刺激的な、新しい知見をいただきました。

 私は、この室町時代の芸能や信仰の分野は不案内です。しかし、今日の発表は、これまで何となくモヤモヤしていたものを払拭するのに十分でした。なぜ石山寺が『源氏物語』と結びついたのかは今は措き、この小林先生の発表の趣旨は私にそのまま入り込みました。
 これを受けて、自分なりに考えてみたいと思うようになりました。

 知的な刺激と興奮をもらったことが、今年のクリスマスイブの収穫です。
posted by genjiito at 23:51| Comment(0) | ◎源氏物語