2010年12月08日

井上靖卒読(114)「昔の愛人」「薄氷」

■「昔の愛人」
 冒頭から、読者の心を掴みます。井上がうまいところです。

 昔、阿佐子が同棲していて、十年前に裏切った男の妻から、突然の手紙が届きます。それには、病床の夫があなたに逢いたがっているので来てもらえないか、というものでした。

 星も月も、この作品では「孤独」を象徴するものとなっています。

 それにしても、阿佐子の夫は、包容力ある頼もしい男です。井上の作品には、よくこのような客観的な立場に立つ男が出てきます。
 鷹揚な夫と、何かと心を砕く妻。感動的な、伊豆の海辺での二人の姿で、この小説は閉じられます。
 この作品も、『井上靖全集』に初めて収録されたものです。もっと読む機会があってもよかった作品だと思います。【5】
 
 
 
初出誌︰婦人倶楽部
初出号数︰1951年9月講和記念号
 
井上靖全集 3︰短篇3
 
 
 
■「薄氷」
 無知愚鈍だという妻とのことを上司に語る夫が、丹念に描かれています。

 平生は自分の意見を言わない妻が、珍しく「なるべくなら明日は家にいてほしいんですけど」と言います。その言葉の意味が、夫は気になります。日記を調べると、明日という日は、妻が子供を堕ろした日だったのです。

 鼾をかいて横で眠る妻を見ながら、妻の心の中を思いやり、愛おしさと共に、妻への不気味さを夫は感じます。自分が知らない妻の心の中を思う夫の心情が、感動的に語られています。【5】
 
 
 
初出誌︰新潮
初出号数︰1952年1月号
 
集英社文庫︰夏花
井上靖小説全集 4︰ある偽作家の生涯・暗い平原
井上靖全集 3︰短篇3
 
 
 

〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 23:55| Comment(0) | □井上卒読