2010年12月07日

読書雑記(27)水上勉『湖の琴』

 学生時代に買った文庫本で、読まないままに眠っていた本が見つかりました。
 ちようど最近は、琵琶湖岸の観音さまを巡拝し散策するプランを練っているところなので、興味の赴くままに読みました。
 
 
 
101207_uminokoto
 
 
 

 水上勉の『湖の琴』は、昭和40年7月23日から翌41年6月8日まで、読売新聞(夕刊)に273回にわたり連載されたものです。
 昭和46年5月から、井上靖の『星と祭』の連載が朝日新聞で開始されています。おそらく『星と祭』を読んで、その関連からこの『湖の琴』に興味をもって購入したものと思われます。この角川文庫の奥付が、「昭和43年10月・初版/昭和46年7月・8版」となっているので、時期的にも符合します。

 さて、『湖の琴』では、湖北の渡岸寺の観音さまが素直な感想で活き活きと語られています。井上靖と比べたらおもしろいと思いました。
 女主人公であるさくの美しさと渡岸寺の観音さまが結び付きます。さくは理想的な女性として描かれていることから、観音さまの生まれ変わりとして語られていきます。

 お盆の行事などが詳しく語られ、日本の伝統的な文化が物語の背景で展開を支えています。
 また、舞台が京都に移ると、我が家の周辺が出てきて嬉しくなりました。大谷大学のそばの上総町は、いつも通るところです。四条通りも馴染みの場所です。
 水上勉は相国寺の塔頭である瑞春院に、小僧として修行をしていました。同志社大学の北側に、今でもあります。
 自分が日常的に通るところや、よく知っている場所が物語の舞台に出てくると、途端に話が立体的に展開するからおもしろいものです。登場人物が、頭の中を自由自在に歩き回るのです。そして、今と比べて楽しんだりもできます。このことは、作品を理解するというよりも、楽しむためにも大切な要素のように思いました。

 物語は後半に急展開します。ラストの余呉湖の月がみごとです。美しい世界が紡ぎ出されています。
 読者に感動を与える作者の筆力を感じました。
 さくと宇吉は、最後には結ばれて幸せを手にすると共に、読者は澄みきった純粋な愛情に浸ることができます。いい小説を読むことができました。
 余呉湖へ行きたくなりました。

 『湖の琴』は、琵琶湖を背景にした美しい物語です。井上靖の『星と祭』は、これを意識しているのではないか、と思われてきました。
 賤ヶ岳を含めて、この湖北地方の歴史と文化に、井上靖はかねてより興味を持ち、ここを舞台にした作品もいくつか書いています。
 琵琶湖の底に眠る少女と十一面観音、それにヒマラヤで満月を観るという話を結合させると、『星と祭』の大枠ができるように思えます。まだ、ほんの思いつきではありますが……【5】

 なお、『湖の琴』は映画化されていました。
 まだ観ていないので無責任に感想を記せば、山岡久乃が鳥居まつ枝役というのが意外です。原作を読んでの印象は、もっと個性的な設定だというイメージでしたので。また、男性陣はもっとひ弱そうなメンバーを連想していました。
 機会を得て、観なくてはいけません。

映画製作年︰1966年
配給︰東映
監督︰田坂具隆
 佐久間良子(栂尾さく)
 中村嘉葎雄(松宮宇吉)
 二代目中村鴈治郎(桐屋紋左衛門)
 山岡久乃(鳥居まつ枝)
 千秋実(百瀬喜太夫)
posted by genjiito at 23:55| Comment(0) | ■読書雑記