2010年12月06日

読書雑記(26)高田郁『出世花』

 本書は、第2回小説NON短編時代小説賞の奨励賞を受賞した「出世花」を土台にして、それに続く3編を書き下ろしの連作として1冊にまとめたものです。
 特異な世界を生きる少女が、純粋に爽やかに成長する姿を描いています。江戸時代という社会の底から見た人間模様が、理と情を巧みに綯い交ぜにした物語として、読者の胸に迫るところが読みどころです。

 なお、主人公が遺体を洗い清める場面を理解する上で、表紙の絵はイメージを膨らませるのに参考になります。これは、京都瑞泉寺副住職の中川学氏が描かれたものだそうです。
 
 
 
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■「出世花」
 江戸時代、1800年頃、青梅街道沿いの落合が舞台となっています。
 人物設定とドラマの盛り上げ方が上手いと思いました。次から次へと、読者を飽きさせることなく話が展開します。特に、少女の心の揺れ動きを描写する筆が活きています。しかも、その少女が屍を洗う湯灌場の仕事をしているという、非日常的な世界が読者を捉えて離しません。これまで知らなかったこと、意外なことの連続の中に女主人公のみならず我々も身を置き、社会の仕組みや人の情の温かさに浸ることとなります。【4】


■「落合蛍」
 「おくりびと」ならぬ女納棺師の話でもあります。女主人公のお縁は、女検死官とでも言えばいいのでしょうか。多彩な役割をこなしていきます。
 この章は、とりたてて大きな展開もなく、抒情的に語られます。夏という季節の中で、自然が、人の心がみごとに描かれます。ジンワリと、お縁の眼を通して、人の世が、人の情が伝わってきます。
 ところが、一転して話が急展開します。それまでの話が伏線となり、驚愕の事態になるのです。そして、お縁は「やくそく」を果たすのです。蛍が印象的です。語りの巧みさに、思わず唸りました。【5】


■「偽り時雨」
 お寺で屍を洗って死者を冥土に送る仕事をするお縁が、時にはお上に協力して死体検死官になったりします。
 お縁が、何日も神田明神の、おみのの家にいるのが不自然に思えます。亡くなるのを待つ5日間になっているので。
 話の展開に少し無理があります。しかし、そこは筆の力で押し進んでいます。
 この作者にしては珍しく、最後の着地も決まっていません。【1】


■「見返り坂暮色」
 子が親を想う情が、後半にタップリと用意されています。人が生きていく背後にある事情というものが明かされます。
 屍を扱う者だからこそ見えるもの、感じるものが、三昧聖としてのお縁を通して伝わってきます。死者をきれいに洗って冥土へ送る立場の者だからこそ、人の情を掬い上げる視線から、深くものが見えてくることが描かれています。【5】
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | ■読書雑記