2010年11月16日

豊島科研の最終研究会に参加して

 國學院大學の豊島秀範先生が平成19年度より開始された、基盤研究(A)「源氏物語の研究支援体制の組織化と本文関係資料の再検討及び新提言のための共同研究」(課題番号:19202009)が、今年平成22年度で4年間の活動をひとまず満了となります。
 
 その最終の共同研究会が、先週土曜日に開催されました。数えて、第17回です。よくぞここまで運営してこられたものだと、豊島先生のご苦心とご努力に対して、深甚の敬意を表したいと思います。

 私も、最初から関わった一人として、最終回の会合には何とかして参加すべく、国文学研究資料館の事務といろいろと折衝を重ね、個人研究費による出張という形で久しぶりに上京しました。
 私の調査研究活動は、関西方面では業務上の許可を受けていました。しかし、東京へ出向くとなると、別途許可を必要としていたのです。病気療養中といっても、実質的にはインターネット等を通していくつもの業務をすでにこなしていますが、書類上はなかなか面倒なことです。
 とにかく無事に許可がいただけたので、身の回りの世話をしてくれている妻を伴って新幹線に乗りました。あまり体調はよくなかったのですが、どうにか無事に帰洛の途に就いたことなどは、一昨日の本ブログに記したとおりです。

 さて、豊島科研の研究会は、次のプログラムで進行しました。

◆第17回「源氏物語の本文資料に関する共同研究会」 
日時 11月13日(土) 13:00〜
場所 國學院大學 120周年記念2号館 1階 2102教室
内容
開会の辞:渋谷栄一(高千穂大学)
 
第一部 研究・報告1(13:00〜)/司会:菅原郁子
 豊島秀範(國學院大學)
  吉川家本(毛利家伝来『源氏物語』)の本文について
 上野英子(実践女子大学)
  山岸文庫蔵伝明融等筆源氏物語の書誌報告2
 田坂憲二(群馬県立女子大学)
  内閣文庫本系統『紫明抄』の再検討
 神田久義(國學院大學大学院特別研究生)
  外形的性質から見た米国議会図書館本
 
第二部 研究・報告2(14:50〜)/司会:神田久義
 菅原郁子(國學院大學大学院特別研究生)
  正徹本のありかとゆくえ
 渋谷栄一(高千穂大学)
  藤原定家筆・四半本系「源氏物語」本文データベースについて
 中村一夫(国士舘大学)
  仮名文テキストの文字遣
 遠藤和夫(國學院大學)
  注釈書中の室町語彙
 
第三部 最終報告(17:00〜)/司会:國學院大學
 
閉会の辞:豊島秀範



 豊島先生のご高配により、私には無理をしないようにと、特に役割を与えられませんでした。感謝します。

 今回も、いつものように資料を駆使しての手堅い研究報告が並びました。
 この研究会での研究発表は、毎回充実しています。もっとたくさんの若い研究者の参加が得られたら、と、この日も思いました。
 詳しくは、豊島科研のホームページ、及び科研の報告書をご参照ください。
 報告書の入手を望まれる方は、ホームページを通して連絡を取られたらいいかと思います。
 『源氏物語』の本文研究に関する最先端の情報が満載です。これを無視しては、今後とも『源氏物語』の本文については語れないはずです。

 さて、この会に参加して、私は一つだけ悔いが残っています。
 それは、この4年間を通して、最後まで、〈青表紙本〉〈河内本〉〈別本〉という、もう80年も前に池田亀鑑が提唱した、『源氏物語』の本文を3分類する考え方を土台にした発表がなされたことです。

 『源氏物語』の本文は、写本の形態的な分類によれば、池田亀鑑の3分類もいいかもしれません。わかりやすいのです。ただし、それは昭和11年までに整理された分類での仕分けであることに注意が必要です。しかも、その後に確認された写本を含めて、写本に写し取られた『源氏物語』の本文を子細に読んで仕分けると、2つにしかわけられないのです。
 そのことを、近年くりかえし論文の形で公表してきました。私は、〈甲類〉〈乙類〉の2つに分けています。これまでの〈河内本群〉とでもいうものが、おおよそ〈甲類〉にあたります。

 このことを、この豊島科研でも強調してきたつもりです。また、豊島科研のスタート時点でも、本文の分類は、これまでのものをリセットして、白紙の状態で臨む、となっていました。しかし、終始、池田亀鑑の3系統論なるものがまかり通り、最後の先週の研究発表でも、それが基準となっての研究発表が目立ちました。

 私としては、ウーンと唸らざるをえませんでした。
 本文の形態的な分類と、本文の内容を読み取っての文学的な分別の違いについて、この4年間で私にはまったくこの研究会に足跡を残せませんでした。力及ばず、再起を期すしかありません。

 いまだに、池田亀鑑の3系統の分類は亡霊のように強かに生き残っています。
 さて、どのようにして撲滅すればいいのでしょうか。
 私が提唱する、『源氏物語』の本文は内容から見たら2つにしか分かれない、という私見は、まだまだ支持を得るには時間がかかりそうです。間違っていない証拠に、何年にもなるのに、いまだに1つの反論さえ出されていません。
 私見が無視されているのではないようです。みなさんがおっしゃることには、『源氏物語』の本文資料が手元にない、という一語につきるようです。『源氏物語大成』はすでに資料集としては使えないことは、すでに多くの方が気づかれるようになりました。そのためにも、『源氏物語別本集成』全一五巻(伊井春樹・伊藤鉄也・小林茂美編、平成元〜一四年、おうふう)と『源氏物語別本集成 続』全七巻(伊井春樹・伊藤鉄也・小林茂美編、平成一七〜二二、おうふう)があります。しかし、これは使いにくいし、使い方がわからないとも。

 こうなると、さらに根気強く「『源氏物語』の写本は書かれた内容から見ると2つにしか分別できない」ということを、しつこく言い続けるしかありません。

 『源氏物語』の本文に関する〈2分別私案〉は、今後とも粘り強く主張していきたいと思います。
 そんなことを教えてもらった、この4年間の研究会でした。
 まだ、私にはやるべき仕事があるようです。

 それはともかく、豊島科研にかかわられたみなさま、まだ仕事は残っています。
 その残務はそれとして、とにかく4年間お疲れさまでした。
 非常に有意義な共同討議の場でした。
 またいつか、このようなスケールの大きなテーマで、お互いの意見を闘わせましょう。

 豊島秀範先生、ありがとうございました。
posted by genjiito at 20:55| Comment(0) | ◎源氏物語