2010年04月16日

倉田実先生の楽しい論文

 毎年、年度末(3月)になると、たくさんの研究成果が論文として公表されます。それを追いかけるようにして読むのに、多大のエネルギーが要ります。年度の変わり目は、多忙な中にあって、もっとも疲れが溜まる時期です。

 今年、私が一番気に入ったのは、倉田実先生の「女が男に物を返す時 −平安和歌にみる離婚・離縁−」(『大妻女子大学紀要』文系四二号、平成22年3月)でした。

 研究論文というと、何やら堅苦しくて、身構えて読むものが多いようです。そんな中でも、これは読み進むにしたがって、肩の力を抜いて読めます。それでいて、内容が充実しています。語り口や論理展開に、無理がないからでしょう。なるほど、ごもっとも、と納得させられます。多分にお人柄がそうさせるのでしょうが。
 これまでも倉田先生からは、たくさんのご論を通して刺激をうけて来ました。その中でも、これは特に若い方にお薦めです。日本の古典文学を身近にしてくれます。和歌に暗い私でも、倉田先生の和歌の解釈に寄り添いながら、楽しく読み終えることができたのですから。

男の持ち物が女の家に移動することは、結婚や愛情関係の継続を意味し、逆に、女の家から男の家に戻される時、それは離婚や男女関係解消を意味したのである。男の持ち物は、愛情関係のありようによって、移動を繰り返すのであった。


として、男の「懸想文」「お守り」「装束」「笛」「足袋」「調度品」「鏡」「包」「枕」「扇」「手箱」「帯」「位記」「太刀」などが、女から男へ返却されている実態が、和歌を通して考察されているのです。

女側では、男の持ち物を返すという形で、男の気儘さに抵抗していたといえよう。ここに結婚をめぐるジェンダー構造が認められるであろう。


とあるように、この問題はさらに展開していきそうです。そして、これはさらに、「男の持ち物・忘れ物−王朝文学の「通い婚」における愛情の確認−」(倉田実編『平安朝の王権と貴族(仮題)』森話社、2010.5)で詳述されるようです。つぎの論考が楽しみです。

 私も、このように平易で、かつ的を射た考察をしたいものです。大いに啓発される論文でした。
posted by genjiito at 23:54| Comment(0) | ■古典文学