2010年04月13日

藤田宜永通読(9)『空が割れる』

 藤田宜永の新刊『空が割れる』(2010年4月10日刊、集英社)を読みました。新聞に広告が出て、すぐに購入して読みました。2〜4年前に『小説すばる』に発表した作品で、「空」を意識した作品集です。ただし、「小さくて不思議な空」以外は、あまり「空」が有効に機能している作品ではないように思います。

■「逆上がりの空」
 わかりやすい話です。男の存在が自然です。
 ラストの逆上がりのシーンがいいのです。それまでの話を一気に精算する場面となっています。
 しかし、私なら、これで流産する展開にして終えます。そこに物足りなさを感じました。
 このままなら、逆上がりのシーンはない方がいいと思います。【2】

・初出誌︰『小説すばる』2006年6月号

■「小さくて不思議な空」
 青空に恐怖心を抱く女の話です。
 親しくなった誠が、沙保里に示したサプライズは、物語としては盛り上がらないままだったように思われます。もっとすごいサプライズが用意されていると思ったので。
 きれいな話に仕上がっています。しかし、結末で躓いた感じです。短編小説としては、致命的なように思える失策でしょう。【2】

・初出誌︰『小説すばる』2006年9月号

■「空が割れる」
 最後の詰めに不満が残りました。
 綾乃が義弘と縒りを戻すくだりに、それまでの流れとの違和感を覚えました。そして、綾乃の口調が一転して下品になります。それまでの、いい雰囲気だった大人の恋愛ドラマが、途端にガキの痴話げんかに堕落変貌します。
 最近、とみに藤田宜永の小説は、後半になると話が空中分解します。そんなに急いで終わらなくても、と思ってしまいます。
 これは、本書の表題作です。しかし、書名を背負って代表するほどの作品ではありませんでした。執筆時期は、本書の中では後ろから二番目です。しかし、それを真ん中に配置したのは、書名にしていることと関係あるのでしょう。それだけ、作者にとっては思い入れのある作品ということなのでしょうか。【2】

・初出誌︰『小説すばる』2007年11月号

■「画用紙の中の空」
 きれいな話としてまとまっています。読み進めていて、この話がいつものように壊れなければいいが、とハラハラしながら読み終えました。うまく着地した作品で、まずは一安心です。
 オレンジ色が効果的な小説です。空も、きれいな背景となっています。話もいいし。
 もっと千鶴子を描いてもよかったのでは。
 説明口調が少し気になりました。それでも、いい仕上がりの小説です。何よりも、軽いのがいいですね。
 この題名を書名にしたらよかったのに、と思いました。【5】

・初出誌︰『小説すばる』2007年5月号

■「鈴の響く空」
 サラッとした物語に仕上がりました。読み流していて、気持ちのいい話です。
 人間のドロドロした部分を避け、無機的に語り進められます。もっとドラマチックにしても、と思われるほど、穏やかな展開です。
 若い頃のハードな作風から純愛物へ移り、そして今は藤田宜永らしさを模索中、という時期の作品なのでしょう。【3】

・初出誌︰『小説すばる』2007年8月号

■「サンタの空」
 ゆれ動く明日香の心が、巧みに描かれています。ラストシーンが秀逸です。この意外性が、藤田宜永の持ち味だと思います。
 途中が退屈でした。もっと動きを持たせたらどうでしょう。軽さが全体に漂いすぎているので。【4】

・初出誌︰『小説すばる』2008年8月号
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | □藤田通読