2010年01月13日

モンゴル語訳『源氏物語』の話

 モンゴル語訳の翻訳者であるジャルガルサイハンさんとの面談では、たくさんの情報がもらえました。2日間にわたり、たくさんのお話ができました。
 
 
 
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 ジャルガルサイハンさんは、モンゴル国大統領府の要職にある方です。
 昨年、『源氏物語』のモンゴル語訳の第1巻を刊行されました。これには、「桐壺」から「末摘花」まで6巻分の翻訳が収録されています。
 今年は第2巻目が刊行されるはずでした。しかし、公務多忙の中での翻訳のお仕事でもあり、少し遅れているようです。

 ジャルガルサイハンさんが『源氏物語』のモンゴル語訳に取り組まれたのは、前エヘバヤル大統領による「世界の傑作撰集50巻」の企画に発しています。
 1998年から大統領府に籍を置き、社会教育部長などをなさっていたジャルガルサイハンに、大統領から『源氏物語』を翻訳するようにという依頼が来たのです。それまでの、福沢諭吉、夏目漱石、司馬遼太郎などの作品をモンゴル語訳していた実績が評価されてのことでした。
 ジャルガルサイハンさんは、日本の東京学芸大学で修士課程を修了しておられます。
 現在は、教育・保険・宗教担当の大統領補佐官として、激務の中におられます。

 日本の古典文学との関わりがなかったこともあり、恩師の鯉渕信一先生(亜細亜大学)に相談され、谷崎潤一郎訳の『源氏物語』をもとにして翻訳することを決断されたのです。
 昭和40年版の10巻本谷崎源氏を鯉渕先生が用意され、奥様がモンゴルに届けに来られたのです。ちょうど今日のように、寒い冬のことだったそうです。

 翻訳にあたっては、与謝野晶子と瀬戸内寂聴の源氏訳も、併せて確認しながらの作業です。
 また、『源氏物語事典』(秋山虔・室伏信助編、角川書店)を参考にしながらの、未知の領域への挑戦が続いています。

 そもそも『源氏物語』のことを初めて知ったのは、司馬遼太郎の「義務について」という一文からでした。アーサー・ウェイリーや紫式部のことに関連して、『源氏物語』に触れたものです。とにかく、難しいものだとの認識があったそうです。しかし、国の企画でもあり、さらには大統領からの指名ということで、栄誉ある仕事として取り組んでおられます。
 モンゴルはアジアにあり、仏教と関わりの深い国なので、日本の『源氏物語』とのつながりが多いことを実感されてくれるそうです。

 2009年に選ばれた、モンゴルで訳された世界文学作品の最高5作品は、次のものでした。

(1)アイルランド「ウイリス」
(2)日本「源氏物語」
(3)フランス語「酔っぱらっている船」
(4)ロシア「詩 ESENIN」
(5)ハンガリーの作品

 ジャルガルサイハンさんの『源氏物語』が、第2番目に選ばれたのです。

 翻訳にあたって、鯉渕先生からは原文が抜けていてもいいと言われているそうです。わかりにくいところは訳さなくてもいい、ということのようです。しかし、今は全部を訳したいと思うようになったそうです。
 和歌の訳については、モンゴル詩の特徴である韻を踏んでいます。
 ジャルガルサイハンさんの訳は、鯉渕先生と奥様に見てもらっておられます。1982年に国立モンゴル大学で日本語の勉強を始め、1985年に客員教授として来られた鯉渕先生に教わったときから、先生とのつながりができたのです。

 しかし、モンゴルで日本の古典文学がわかる方はおられません。

 『源氏物語』を訳していく上で、植物や衣服などについては、日本人との関心の違いから、いつも苦労するとのことでした。

 例えば、「桐」というものについて、ロシア語で「ウナギの〜」とあることから、モンゴル語では「ウナギの腎臓の木」として訳したのだそうです。モンゴルの読者への理解を大切にしての翻訳です。

 モンゴルでは、虫は人の悲しみを伝える時によく使うとか。人の心を表す意味で虫を使うようです。これは、詩においても同じです。
 「桐壺」巻で、桐壺更衣亡き後の靫負命婦の歌で、「鈴虫の声の限りをつくしても〜」や「いとどしく虫の音しげき浅茅生の〜」の和歌の部分に関して、時間を忘れて、しばらく意見交換をしました。

 蓮についても、西の方にあると聞いている程度で、見たことはないそうです。仏教に関連する花なので、ご存知と思っていたので意外でした。
 このようなことが、たくさんあるようです。異文化理解のすれ違い、とも言えそうです。

 また、花について、モンゴルでは、日本のようにさまざまな名前をつけて区別してはいないのです。色で花を区別することが多いので、「菊」は「黄色い花」ということになります。

 「夕顔」は「お月様の花」とするといわれると、その理由がわかりません。すると、夕顔は見たこともないので、辞書で調べると、夕方咲いて明け方に萎むことから、「お月様の花」と言うことにしたのだ、とか。

 ロシア語とモンゴル語の辞典で調べ、その意味を考えることが多いそうです。
 ロシア語を調べ、国際的な名称を調べて訳文に活かすことにしておられるのです。

 翻訳を通してわかる異文化理解は、ざざまな問題に気づかせてくれます。

 最近、第1巻がハードカバーだったので、安価なペーパーバックの軽装本にして刊行されました。
 
 
 
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 中は一緒で、表紙と装丁だけが変わっています。
 一人でも多くの方に読んでもらいたい、との思いから自費出版です。
 1日も早く全10巻が完結することを祈っています。
posted by genjiito at 10:18| Comment(0) | TrackBack(0) | ◎源氏物語