2009年09月28日

井上靖卒読(90)「補陀落渡海記」「小磐梯」

■「補陀落渡海記」

 自分以外の力によって死出の旅が強制される時があったら、私はどうするでしょうか。
 そんな立場に身を置いた僧侶が主人公です。
 その心境になっていないのに、世間に対して本心が言えないのです。尊敬されていればそれだけ、世間からの期待と噂から逃げられなくなります。
 金光坊は、今年の11月に渡海しなければならない立場と環境に苦悶します。
 観音信仰に瑕を付けないためにも、船出しないわけにはいきません。僧侶は、苦しい立場に追い込まれました。

 心の準備ができていない人間の心中が、赤裸々に描かれています。おもしろくもあり、気の毒でもあります。
 先師のことをひたすら考える金光坊。
 その結末を読み終え、人が生きることの重さを痛感しました。
 金光坊の無念さは、いかばかりだったことでしょう。【4】


初出誌︰群像
初出号数︰1961年10月号

新潮文庫︰楼蘭
旺文社文庫︰天平の甍 他一編
井上靖小説全集18︰朱い門・ローマの宿
井上靖全集6︰短篇6
 
 
 
■「小磐梯」

 大自然の中に抱え込まる人間を活写しています。
 小刻みに揺れる地震による不安な雰囲気を、ことばで伝え語ります。
 明治21年という時代も、鮮やかに描いています。
 月明かりの中の男女の描写は、一幅の絵になっています。死を決した女の顔が印象的です。月光をうまく使っています。
 やがて、磐梯山の噴火。
 美しい湖が秘める背景には、こんな物語があったというのです。【4】



初出誌︰新潮
初出号数︰1961年11月号

新潮文庫︰楼蘭
旺文社文庫︰猿狐・小盤梯 他八編
井上靖小説全集18︰朱い門・ローマの宿
井上靖全集6︰短篇6



〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読