2009年06月02日

読書雑記(14)大門剛明『雪冤』

 先日発表された第29回横溝正史ミステリ大賞は、大門剛明氏の『雪冤』(応募時のタイトル「ディオニス死すべし」を改題、平成21年5月、角川書店)に決まりました。
 早速読みました。

 死刑問題を取り扱い、圧倒されるほどのエネルギーで語られます。作者の熱意が感じられ、読者の私も、難しい問題を理解しようとしました。知らなかったことを、たくさん教えてもらいました。
 ただし、小説やミステリという視点で作品を読むと、いろいろと問題があります。また、作者の文章が下手なので、なかなかうまく伝わってこないものがあります。特に、人間関係の書き方がわかりにくいのが難点でした。

 息子の冤罪を晴らそうとする八木沼と、姉を殺された菜摘は、自転車で京都を走りまわります。京都での生活を知る作者らしい設定です。
 現実の京都の風土を取り入れ、鴨川を中心とした話の展開は、京都案内にもなっています。
 しかし、関西弁が変だと思われる箇所が散在していました。
   「…どう思わはれますか」(52頁)
   「…どう思わはれます?」(168頁)
とあるのは、実際には、「はれます」ではなくて「はります」と使っているのではないでしょうか。
 菜摘は、姿かたちが理想的な美人として出てきます。それなのに、言葉遣いは下品で乱暴です。敬語も、美人の女性のイメージを、その言葉遣いで壊しています。
 作者は、女性の言葉遣いをもっと工夫すべきです。菜摘の発言部分だけでも、早急に改稿すべきです。そうしないと、ドラマ化できないでしょう。
 その他、各所でぎこちない関西弁にでくわします。無理矢理、関西弁を書き言葉にしたための不自然さのようです。
 それとも、三重弁がこうした表現をするのでしょうか。京都の言葉遣いではないですね。

 また、「綺麗になられましたね」ということばが、早い段階で2回も出てきた時点で、物語展開のおおよそが見えてきました。
 作者は、よけいなことをしてくれました。読者の楽しみが半減です。

 気になったことの指摘よりも、よかったところも記します。
 第4章は、感動的な章となっています。刑務所で死刑を待つ息子は、本当は父親に会いたかったのです。情に訴える章となっていました。この作者は、それ以外が割と力まかせの文なので、こうした描写を心がけたらいいと思います。
 ただし、このよかった第4章の内容が、後半にうまくつながっていきません。

 全体に、無理矢理に話を複雑にして、引っ張りすぎだと思います。
 話はおもしろいし、読ませる力のある文章です。しかし、話を複雑にしなければいけないと思っているのか、後半の矢継ぎ早のどんでん返しの連続は、付いていくのに疲れます。登場人物の関係が混乱します。ゴチャゴチャさせられた、という印象を持ちました。
 そのためか、最後に紹介される「ディオニス死すべし」という台本が、ストンと私の中に落ちてきませんでした。
 折角の大事なネタが、最後に大慌てで出されたという印象を持ちました。もったいないことをしました。

 本書を通して、真実も冤罪も、当事者にとってはさまざまな思いが重なり合っている、ということがわかりました。死刑制度に一石を投じる作品となっています。
 しかし、それにしても、殺人犯人を特定していく後半で、話をややこしくした分だけ、単純化できずにテーマがぼやけたのは残念でした。ミステリにしようとして小細工をせずに、中盤までの調子で篤く冤罪と死刑制度が内包する問題を、ストレートにぶつけもらったほうがよかったように思います。内容がどんどん軽くなってしまったからです。

 いいテーマを取り上げていたのですが、最後に失速してしまった作品でした。
 同じテーマで、趣向を変えてチャレンジしてほしいものです。
 次の作品も、読んでみたいと思わせる作者です。【3】
posted by genjiito at 22:51| Comment(1) | TrackBack(0) | ■読書雑記