2008年10月26日

井上靖卒読(49)『こんどは俺の番だ』

 一人の女のためにビルを攀じ登る賭けをする男の話から始まります。
 このビル登りは、最後にも出てきます。こだわりの設定のようです。

 この小説には、純粋な心を失わない青年が描かれています。青臭く、嘘臭い話が展開します。
 これが、井上靖の作品が持つ一面でもあります。

 また、一人の女の周りを、人のいい男が何人も取り巻き、さまざまなドラマを生む話ともなっています。
 人間の細やかな描写は少なく、話題の展開で読ませる手法です。
 井上靖の軽みのある小説は、こうしたテンポのよさで進行します。

 登場人物たちは、お互いのコミュニケーションを大事にしています。説明のできる行動をしようとしています。真っ直ぐな人間群像が織りなすドラマです。

 いかにも作り話だ、という感じが、最後まで付き纏います。
 話が、いささかぎこちないのです。思いつくままに、話を展開させている、という感がします。片手間に書いている作品だ、という印象が拭えませんでした。

 他愛もない男と女たちの話を、ダラダラと語っているようにも見えます。
 青春小説といえばそれまでですが、なぜ井上は、この生活感が欠如した作品を公開したのでしょうか。

 『井上靖全集』にこの作品が未収録なのは、こうしたことが理由なのではないか、と思ってみたりもしています。【1】


初出誌︰オール読物
連載期間︰1956年1月号〜12月号

文春文庫︰こんどは俺の番だ



〔参照書誌データ〕
 井上靖作品館
 http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読