2008年10月23日

源氏千年(65)源氏展図録が24%も売れている意味

 国文学研究資料館の特別展『源氏物語 千年のかがやき』は、今日で会期の3分の2を経過しました。

 毎日 130人以上の方々が鑑賞に来てくださっています。3000人になろうとしているので、予想以上の方々に観てもらっていることになります。

 それよりもなによりも、来館者が図録を購入される比率が、何と 24%を超えています。
 これには、館内でのイベントの際に、書店が受け付けテーブルに本を並べて売ったものは入っていません。
 たとえば、5回の連続講演として室伏信助先生にお願いしている『源氏物語』の講演の際、講演会場の受付横で外部の書店が図録などを販売しています。源氏展を観てから講演会場にいらっしゃった方々も、この受付で図録を購入なさっています。しかし、上記の数値には、この数は入っていません。
 つまり、純粋に展示室の入口カウンターで購入されたものが、来館者の24%なのです。

 展示終了後に、館内で業者が販売した図録の数も加算しますので、この24%という数値は跳ね上がることでしょう。

 京都文化博物館の図録は10%の購入率だったそうです。それが驚異だといわれています。
 一般的に、博物館や美術館での展覧会での図録の販売は、3%から7%くらいだとのことでした。もちろん、その根拠は知りませんが。

 この国文学研究資料館における図録の売れ行きは、どう評価したらいいのでしょうか。
 観に行く、という動機が明確な方々がいらっしゃったから、ということは確かにあります。
 しかし、それだけではないように思うのです。

 品川から立川に移転して、都心を離れたことにより、交通の便は悪くなりました。
 遠くなったという心理的影響は、足を向けてもらうことにおいては、大きいと思います。

 それでも、たくさんの方々がいらっしゃっています。

 これは、地元の方への宣伝がうまくいったのではなくて、いい評判がうまく広がったからでは、と私は考えています。
 宣伝は、呆れるほど下手でした。愚直なまでに、動きませんでした。
 マスコミ対策も、悔しい思いを抱いての日々です。
 反省しきりなのですが、それだけの余裕がなかったのと、すべてが初めてのこと、ということに甘えていたように思います。
 あくまでも、個人的なブログに書くことなので、このことはこれくらいにしておきます。


 今回は、終始一貫、展示のレベルを他の施設における『源氏物語展』よりも、2から3ランクは高めに設定しています。

 これが、もっと知りたいと思っている方々を呼び込んだ可能性が、少なからずあることでしょう。
 展示品のレベルを保ちながら、パネルなどの説明は字数をはじめとして平易を心掛けました。
 会場の入口には、「見どころ案内」という、展示品のコラム集のような20頁の冊子を置き、自由に取ってもらえるようにしました。
 現在、改訂第6版を配っています。
 これが、わかりやすいと評判です。ただし、その内容を見ることもなく、手にしたままでお帰りになる方が多いことが、時間を割いて作成した者としては残念です。
 あのガイドのパンフレットを片手にして回ると、もっと面白く観られるのに、と、つい耳元でささやきたくなりますが、それができないのが歯がゆいところです。
 それでも、「見どころ案内」の新しいものだけを取りに来られる方がおられるのは、説明文を書き、印刷し、入口にセットしている者としては、嬉しい限りです。手作りのコミュニケーションが伝わった時の喜びを、少しではありますが感じられる瞬間です。
 今日印刷した改訂第6版で、この発行部数は2250部となっています。
 無くなると印刷する、という嬉しい手作業の日々です。
 本当に個人的な営為を続けているのですが、一般の方々に分かってもらえることを願って、作り続けるつもりです。

 それと呼応するように、図録の内容は、学問的なレベルでの評価にも耐えられるようになっています。
 文字を多く、コラムの内容を硬軟とりまぜ、絵引き索引を充実させました。

 そして、色遣いには、細心の注意と時間を贅沢に注ぎ込みました。京都の鷺草デザイン事務所には、何度も通いました。カラー印刷の出来は、格段にいいはずです。
 これで、1995円なのです。
 思文閣出版の刊行なので、書店でも購入できます。

 こうしたことが理解されて、一度来た方が再度来てくださる要因になっているのかも知れません。

 展示品も、資料性の高い、『源氏物語』に関する一級資料を中心としています。
 『源氏物語』の資料とされる中で、重要文化財と重要美術品は漏れなく押さえています。
 選定にも、『源氏物語』の専門家をうならせているはずです。
 さらには、観てもらう巻や、開いている頁や、表紙の演示などにも、これからの研究に資するところを意識して展示するように配慮しました。
 大島本などは、研究の現状をご存知の方は、ニヤリとなさったことだろう、と自負しています。
 今、我々が読んでいる『源氏物語』の本文が一体どんなものなのか、我々は何を読んでいるのか、という問い掛けは、問題意識を持っていただくための展示装置としては、これで成功したのではないか、と勝手に思っています。
 さりげなく池田本を並べていますが、この意図も何人かの方には通じたようです。私からの提言のいくつかの内の1つなのです。

 これは、図録の写真にも言えます。
 今後とも、研究論文などで言及される図版となることを意識して図録に収載したものが、ここにはいくつもあります。
 研究会や大学のゼミでも使えるように構成し、記述されるようにしてあるので、いくつかのゼミで採択していただけることを知り、編集の意図を理解していただけたことを嬉しく思っています。

 いずれにしても、こうした意図で作成した図録が高い比率で手にしていただけるのは、そこに国文学研究資料館という組織が背負う性格が反映しているからに他なりません。

 今、24%という数値を示していることは、現在の『源氏物語』の研究状況が停滞している実情を知る上で、非常に参考になる物差しではないでしょうか。
 とにかく、『源氏物語』の本文研究は、70年も止まっていたのです。それが、この『源氏物語』の千年紀を起爆剤として、今、少しずつ動き出したのです。国文学研究資料館がこの分野で果たす役割も、おぼろげながら見えてきます。

 この分析は、会期終了後に、あらためてしたいと思います。

 源氏展の会期は、あと10日です。
 最終週は、招待券などをお持ちで、まだいらっしゃっていない方々が来られます。
 来場者は増え続けることでしょう。しかし、その方々が、図録を購入される方々なのかどうかは、今はわかりません。

 これからのラストスパートで、図録がどのくらい伸びるのか、それとも伸びないのか、大いに楽しみです。
posted by genjiito at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | ◎源氏物語