2008年10月18日

井上靖卒読(47)『波濤』

 圭子という一人の女性の成長が、彼女の恋愛を通して描かれています。
 無理のない、自然な心の動きが、冷静に見つめられています。
 善人だけの、井上靖の世界です。

 慌ただしさの中に、ゆったりとした時間が流れていきます。
 井上靖らしい小説です。

 父親的な存在の宇津木は、人間が夢中になるすばらしさと、純粋な心の大切さを説きます。物語を引っ張っていく人物です。

とにかく相手の総てを肯定して、愛するように努めることですよ。(217頁)


と言う宇津木のことばは、作者である井上のメッセージでもあります。

愛情は努力でつくり上げるものではなくて、自然に生まれて来るものではないだろうか。(236頁)


 愛情とは何か、鋭い指摘です。

 最後は、もう少し先の、さまざまな問題を残しながら終わります。しかし、圭子にも、矢野井にとっても、明るい明日が保証されています。

 読者としては、もう少し語ってほしいところですです。しかし、これで十分です。
 満たされた気持ちで読み終えることができました。【5】



初出誌︰日本
連載期間︰1958年1月号〜1959年3月号
連載回数︰15回


角川文庫︰波濤
井上靖小説全集7︰あした来る人・波濤



参照書誌データ:井上靖作品館
  http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/
posted by genjiito at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読