2008年06月03日

井上靖卒読・再述(10)『愛』

 この本を読むのは、もう4回目になります。
 この前は、昨年の2月6日に「卒読(10)」として、旧ブログの「たたみこも平群の里から」に掲載しました。
 しかし、それが昨年のサーバーのクラッシュにより、すべてのデータが消失し、復元できなかったので、今回再度読み直してここに記すことにしました。前回書いたことをまったく思い出せませんので、新たに書き直すことにします。

■「結婚記念日」
 これは、何回読んでも、前に読んだはずなのに話の展開が思い出せないままに、引かれるように読み進んでしまいます。心の中が巧みに描かれているせいでしょうか。
 結婚記念日の予定を変更するエピソードは、よくあることです。
 お互いの心の動きを合わせようとする中で出した結論が、結局は一周して元に戻っているということも、よくあることです。
 そうしたことが、いかにもありそうな話として描かれています。
 地味ですが、心安らぐ終わり方に、読者としては安堵します。【3】



初出誌:小説公園
初出号数:1951年2月号

角川文庫:愛
潮文庫:桜門
井上靖小説全集3:比良のシャクナゲ・霧の道
井上靖全集2:短篇2



■「石庭」
 主人公の魚見二郎は、龍安寺の庭で決断を迫られます。まずは、親友から。そして愛人から。
 新婚旅行で龍安寺に行きます。そこで、新妻に変化が起きます。「妥協」ということばがキーワードとなっています。
 過去の出来事を引きずって生きる人間を描いた、井上靖の秀作だと思います。【4】



初出誌:サンデー毎日
初出号数:1950年10月中秋特別号

角川文庫:愛
井上靖小説全集3:比良のシャクナゲ・霧の道
井上靖全集2:短篇2



■「死と恋と波と」
 死に行く2人の話です。
 「生きてみようかな」と翻意するまでの心の葛藤とその過程が、みごとに描かれています。
 女の描かれ方が、少し優しすぎるように思います。もっと、心の内を語らせたらよかった、と思われます。
 最後に、女が男に己のすべてを預けたことは、この作品を小さくしてしまったのではないでしょうか。【3】



初出誌:オール読物
初出号数:1950年10月号

角川文庫:愛
井上靖小説全集3:比良のシャクナゲ・霧の道
井上靖全集2:短篇2










posted by genjiito at 23:52| Comment(3) | TrackBack(0) | □井上卒読