2008年04月21日

井上靖卒読(36)「湖の中の川」「大洗の月」「孤猿」

 ■「湖の中の川」
 人を捜しに湖へ行ったことを、スケッチのように語っています。特に何があるわけではありません。みんな、善良な人ばかりであることが、井上らしいと思います。
 偽者というおもしろい人物設定で、淡々と物語っている小品となっています。捜している偽者に会うシーンを入れてほしかったと思います。風景の中に、人間の情が生まれるからです。
 それをしなかった井上、その一歩手前でやめた井上は、一枚の絵で終えようと思ったからではないでしょうか。【2】


初出誌:文芸
初出号数:1955年3月号

新潮文庫:姨捨
旺文社文庫:猿狐・小盤梯 他八編
井上靖小説全集11:姨捨・蘆
井上靖全集4:短篇4



 ■「大洗の月」
 滅びの予感や絶望感から月見にでかけるという、月見の動機がおもしろいと思いました。『星と祭』の問題解決の1つとなります。
 月見にでかけた地で、一幅の絵を見かけます。その名に惹かれて買いますが、作者との面談で、さらに人間の温かさを読者に伝えます。偽者かもしれない作者にも、温かい眼を注ぐのです。
 井上らしく、悪人は誰もいません。
 画家と酒を飲みながら、ようやく明るくなった月を見ます。小さな村での出来事が、1つの絵として言葉で上品に描かれています。【4】


初出誌:群像
初出号数:1953年11月号

新潮文庫:姨捨
旺文社文庫:猿狐・小盤梯 他八編
井上靖小説全集10:伊那の白梅・大洗の月
井上靖全集4:短篇4



 ■「孤猿」
 記憶から紡ぎ出される話です。
 寒月と野猿の絵にまつわる話の中の月の性格には、厳しさが込められています。
 「孤猿」ということばの有無も、おもしろいと思いました。月と猿はどう関係するのか、興味深い問題だと思います。井上はそこまでは言っていませんが……。【2】


初出誌:文藝春秋
初出号数:1956年10月号

新潮文庫:姨捨
角川文庫:孤猿
旺文社文庫:猿狐・小盤梯 他八編
井上靖小説全集19:ある落日
井上靖全集5:短篇5





※井上靖の作品に関する情報は、引き続き「文庫本限定! 井上靖作品館」(http://www2.plala.or.jp/baribarikaniza/inoue/)のサイトを参照させていただいています。
 詳細で膨大なデータベースを公開なさっていることに、敬意を表して引用しています。

posted by genjiito at 00:49| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読