2008年03月26日

わが父の記(1)感謝の念を伝える

 井上靖に『わが母の記』という作品があります。
 そのまねをして、折々に〈わが父の記〉を綴ってみたいと思います。

 息子にとって父親とは、元気な時には、あまりいい関係は保てないように思います。
 それは、私がそうだったというだけかもしれませんが……。一般的にはどうなんでしょうか。
 私の父が言うことは、いつも教訓じみていたので、自然と距離を置くようになっていました。
 とにかく、うるさいと思ったことが多いのです。ほっておいてほしかったのです。

 息子のことを気にかけて、心配してくれていたことは、痛いほどわかりました。感謝しながらも、しかし、態度としては冷ややかに接していたように思います。

 父が亡くなって25年が過ぎようとしています。今にして思うと、申し訳なかったと後悔しています。何とかして、「ありがとう」という気持ちを直接ことばで伝えればよかったのですが、それも叶わないままに見送ってしまいました。

 息子としてせめてもの感謝の念は、癌で余命いくばくもない時に、父が作り貯めていた川柳を『ひとつぶのむぎ』という1冊の句集にまとめて出版できたことに込めたと思っています。

V5ngrq6t_s句集作成中




7auqztag_s完成した句集




 燃え尽きる最後の最後まで、父は自分の生涯で唯一の本にサインをして、関係者に発送していました。こうしたことが最後にできるようにしたことが、せめてもの父への感謝だったと思うことにしています。

 そんな父との関わりを通して得たことを、今は息子に接するときに気を配っています。

 父との思い出は、思いの外たくさんあります。
 折りを見て少しずつ思い出しながら、父へ語りかけていくつもりです。



posted by genjiito at 01:23| Comment(0) | TrackBack(0) | *回想追憶

井上靖卒読(32)「流星」「梧桐の窓」

 「流星」「梧桐の窓」は、共に角川文庫『霧の道』に収録されている作品です。


(1)「流星」は、戦時中の満州での、2人の男の物語です。
 2人は、かつての夢が今もあるのか、と語り合います。人間は、生きるために努力すべきだと。
 若い時は、流星の終焉の清潔さを語っていたのですが、今は清潔な生命の終わり方はない、と言うのです。
 きれいな小品です。【3】



初出誌:小説と読書
初出号数:1950年7月号

文春文庫:断崖
角川文庫:霧の道
井上靖小説全集3:比良のシャクナゲ・霧の道
井上靖全集2:短篇2





(2)「梧桐の窓」

 主人公美也子の過去の恋人とのことが、少しもったいぶって明かされていきます。何があったのか、と思いながら読み進むことになります。

 月光の設定がありました。昔の恋人に逢いに行く船窓から見える月を、「三角波が白い月光に光っていた。」(147頁)とあります。
 時間の軸を切り替える役割を、この月光がしているように思います。

 美也子は、昔の恋人の今の生活を確認して、自分の今を見つめ直します。そして、明日に向かって、仕事に立ち向かいます。
 主人公の心の整理の過程が、丁寧に描かれています。
 常に前を見て生きる女を描く、いい作品です。

 これは、恋人の弟である雅彦が美也子に寄せる気持ちをもっと描き込むと、中編小説へと仕上がっていくように思いました。

 このメモを記していて、「梧桐」を「あおぎり」と読むことを知りました。自分の国語力にガックリの瞬間でした。【3】



初出誌:キング
初出号数:1951年11月号

角川文庫:霧の道
井上靖全集3:短篇3




posted by genjiito at 00:14| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読