2008年01月07日

井上靖卒読(18)『ある落日』

 清子とは何者なのか。
 進展する話の背景がわからないまま、何があるのだろう、と思わせながら物語は展開します。井上の長編小説で使われる、1つの手法です。
 不倫をテーマとするので、井上の語り口に興味を持って読みました。

 以下、思いつくままに。

・月光の中の女性まさみは、わざとらしい設定です。きれいなシーンを作ろうとしたようですが、話の流れからは唐突でした(角川文庫603頁)。

・人生観を語る実業家の小杉に、この物語の結末を予感しました。死ということを(388頁、475頁、476頁)。

・『星と祭』のように、もう一つの世界にいる自分との対話が、この作品に出てきます(473頁)。自己を投影して客体化する設定です。これは、『化石』でも用いられる手法で、死に関係する物語展開で、井上が有効な使い方をするものだと思われます。

・後半の、雪の八ケ岳山麓での、愛と死をめぐる二転三転がおもしろい作品です。絵のように、きれいな物語です。
 ただし、登場人物の3人については、どうもスッキリしないままです。明るい展望がないままに幕を閉じます。

・私には、消化不良の小説でした。ただし、再度読む価値はありそうです。

・巻末の自分で記してあったメモによると、ちょうど20年前に、これを読んでいます。しかし、話の内容はまったく覚えていませんでした。
 井上靖の小説は、すでに読んでいるはずのものでも、私にとっては、いつも初めて読むものなのです。不思議です。どうしたわけでしょうか。こうして、このブログで井上の全作品を、記録を残しながら読み進もうと思ったのは、この物語の内容がまったく記憶にのこらないという不可思議さについて、その理由を探りたかったからでもあります。【3】

初出紙:読売新聞
連載期間:1958年4月12日〜1959年2月18日
連載回数:310回

角川文庫:ある落日
井上靖小説全集19:ある落日

映画:ある落日
制作:松竹
監督:大庭英雄
封切年月:1959年3月
主演俳優:岡田茉莉子、森雅之

posted by genjiito at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読