2007年08月31日

井上靖卒読(13)『真田軍記』

 『真田軍記』は、4編の短編で成っています。歴史物として、なかなかおもしろい仕上がりです。【3】

 (1)「海野能登守自刃」
 人間の運とその背景にある情を語る短編です。
 海野能登守は、満足しない性格が運を失います。身を引くも、やってきた運に欲がでます。強すぎたが故に疑いを持たれても、逆らう気はまったくないのです。しかし、人は邪魔に思われることがあります。本意と異なる状況での、冷静な判断を下す能登守に、人間の清々しさを感じました。

初出誌:小説新潮
初出号数:1955年8月号

角川文庫 :真田軍記
旺文社文庫:真田軍記
井上靖小説全集:14 淀どの日記・風と雲と砦
井上靖全集:5 短篇5

 (2)「本多忠勝の女」
 敵対する者との腹の探り合いの中で、親としての子への自然な情に従う真田昌幸を、客観的に語ります。そしてその背景に、一見ひ弱で従順なだけの嫁への好感が、その出自ゆえのしたたかさを知って感嘆する様が、サラリと描かれています。佳作です。

初出誌:小説新潮
初出号数:1955年9月号

角川文庫 :真田軍記
旺文社文庫:真田軍記
井上靖小説全集:14 淀どの日記・風と雲と砦
井上靖全集:5 短篇5

 (3)「むしろの指物」
 引っ越しを終えた夜に、自分の思い通りに生きた無欲の2人のつましい男の一生を、淡々と語ります。
 平凡すぎるほどの平凡な人生の中にも、その時々の満たされた心が、読者に温もりを感じさせます。末尾の、2人が別かれるシーンで、湖に蛍が飛ぶのが印象的でした。
 「最初の時は月光が照り、月の周囲を雲が早く走っていた。」という所は、しっかりとチュックしました。

初出誌:小説新潮
初出号数:1955年10月号

角川文庫:真田軍記
旺文社文庫:真田軍記
井上靖小説全集:14 淀どの日記・風と雲と砦
井上靖全集:5 短篇5小説新潮*

 (4)「真田影武者」
 闘う闘志の描写が生き生きとしていて、井上靖らしいと思いました。
 ただし、内容は資料不足のせいか、薄っぺらに思えました。

初出誌:小説新潮
初出号数:1955年11月号

角川文庫:真田軍記
旺文社文庫:真田軍記
井上靖小説全集:14 淀どの日記・風と雲と砦
井上靖全集:5 短篇5


 
posted by genjiito at 23:36| Comment(0) | TrackBack(0) | □井上卒読