淀屋橋北詰から中之島図書館の間の散策路を「みおつくしプロムナード」といいます。大阪市役所の南側に沿う、土佐堀川沿いの道です。いつもきれいに整備されています。今日も、冬から春へと移り行く草花が、植え込みに盛られていました。
現在、大阪府立中之島図書館では、中之島図書館120周年 新館完成記念特別展として、「貴重書のみどころ」を本館3階展示室で開催中です。期間は、本日、令和7年2月8日(土曜日)から2月22日(土曜日)までで、入場無料です。
展示されていた資料の内、私は定家の『明月記』〔断簡〕に目が止まりました。展示担当の方が撮影しても構わないし、ブログに掲載しても大丈夫だとのことだったので、宣伝を兼ねて紹介します。
添えてあった説明文を引きます。
明月記(断簡) 1軸
藤原定家 (1162-1241) 自筆 川田文庫 170
『明月記』は藤原定家の10代の頃から約60年にわたり書かれた日記で、その多くは京都の冷泉家に保管されている。この断簡(古筆切)は、年中行事の「射場始」(天皇が弓場殿で、公卿などの弓の競技を見る儀式。通例、10月5日に行われたが、11月・12月の場合もある)を記述した記事の一部。年月日が明らかでないが、記載の人名等から建久4年か5年(1193か1194)の10~12月頃のものと考えられる。
『新古今和歌集』などでのちに和歌の神様のような存在となった定家は、その個性的な筆跡も「定家様」と呼ばれ、愛された。
本断簡は、歌人・川田順の旧蔵資料で当館に寄贈された「川田文庫」の中の一つ。
この展示室の隣の部屋が、私が担当している講座の会場である多目的室2です。今日も、この部屋で、『百人一首』と『源氏物語』の講座がありました。
まずは『百人一首』から。
今日は、陽明文庫旧蔵カルタの、76番歌から88番歌までの確認をしました。以下の通りです。
■吉村仁志『百人一首』七六〜八八・試訳 (付・仮名文字に関するメモ:伊藤鉃也)
・吉海直人『百人一首で読み解く平安時代』(角川学芸出版、二〇一二年)の訳(以下、底本の訳)を参考にした。
・高校生を意識して、また耳で聞くだけでもわかりやすく、イメージしやすい訳を心がけた。
【七六】
〈原文〉【和田】の【原】 こ幾【出】弖三れ者 【久方】能【雲井】耳満可ふ おきつしら【波】
〈底本の訳〉大海原に漕ぎ出して見渡すと、はるか向こうに雲かと見間違うばかりに沖の白波が立っています。
〈試訳〉大海原に漕ぎ出して見渡すと、はるか向こうに見えるのは、雲と見間違えそうになるほど白い波。
・下の句の訳し方
→音で聞いた時に順番に情景がイメージできるように、「はるか向こうに見えるのは」と訳した。
※仮名文字
【原】【方】【井】【波】の漢字に注意。
「幾」「弖」「つ」の仮名に注意。
【七七】
〈原文〉【瀬】を者や三 【岩】耳世可るゝ 多き【川】の王礼弖も春ゑ尓 あ八んとそおもふ
〈底本の訳〉川の流れが速いので、岩にせき止められる急流が二つに分かれてもいずれはひとつになるように、今は引き離されて逢えなくても、後にまた逢おうと思っています。
〈試訳〉川の流れが速いので、岩にせき止められた急流は、二つに分かれてもいずれ一つに戻る。それと同じように、今はあなたと一度引き離されてしまっても、いずれまた逢おう、と思っている。
・序詞の訳し方
→川の情景と自分の思いを重ねているのを表現するにあたって、原文と同じ順序で訳すと煩雑になってしまうので、比喩の方を先に訳した後、一度文を切って改めて心情を訳した。
※仮名文字
【瀬】【岩】の漢字に注意。
「世」「王」「礼」「弖」「そ」の仮名に注意。
【七八】
〈原文〉あ八ち【島】 かよふ【千鳥】の 【鳴】こゑ耳【幾夜】祢さ免努 須万能せ幾毛里
〈底本の訳〉淡路島から須磨に渡ってくる千鳥のもの悲しい鳴き声に、幾晩目を覚ましたことでしょうか、須磨の関守は。
〈試訳〉淡路島から渡ってくる千鳥の、もの悲しい鳴き声に、幾晩目を覚ましたことだろうか、須磨の関守は。
・上の句の訳し方
→音で聞いた時にわかりやすくするため、底本にある「須磨に」を省略し、「千鳥の」の後に読点を置いた。
※仮名文字
【島】【鳥】【鳴】の漢字に注意。
「こ」「努」「幾」の仮名に注意。
【七九】
〈原文〉【秋風】耳 【棚引】【雲】の 多え万よ里毛礼いつ類【月】能 可け乃さや希佐
〈底本の訳〉秋風にたなびいている雲のとぎれから漏れる月光の、なんと澄みきっていることでしょう。
〈試訳〉秋風にたなびいている雲の、切れ間から漏れてくる、月の光の清らかさ。
・結句の訳し方
→この歌の中心である月光の清らかさを強調するために、あえて体言止めで訳した。
※仮名文字
【棚】【雲】の漢字に注意。
「え」「礼」「類」「希」「佐」の仮名に注意。
【八○】
〈原文〉【長】可らん 【心】もしら須 くろ【髮】能み多連弖【今朝】八 ものをこそ【思】へ
〈底本の訳〉末長く変わらないあなたのお心かもしれませんが、今朝の私の心はこの黒髪と同じように乱れてもの思いに沈んでいます。
〈試訳〉末長く変わらないというあなたの心も、どうなってしまうかはわからない。私はこの乱れた黒髪と同じように、今朝は乱れた心で物思いをしているけれど。
・上の句の訳し方
→二句目までは相手の心、三句目以降は自分の心情について詠んでいるので、途中で文を一度切った。
・下の句の訳し方
→二句目までの相手の心と対比する形で、自分の心情を逆説を用いて訳した。
※仮名文字
【心】【髪】【今朝】【思】の漢字に注意。
「須」「連」「弖」の仮名に注意。
【八一】
〈原文〉本とゝ支須 【鳴】つる【方】越 【眺】無れ者【唯】【有明】能 【月】楚のこ連類
〈底本の訳〉時鳥が鳴いた方を見ると、時鳥の姿は見えずただ有明の月が見えていることです。
〈試訳〉時鳥の鳴き声。聞こえた方を見てみると、既に時鳥の姿はない。ただ有明の月だけが残っている。
・上の句の訳し方
→下の句で詠まれる「残っている月」と対比して、残っていない時鳥を表現するため、鳴き声が聞こえる→そちらを見る→姿が見えないという短い時間の流れを表現するために、それぞれを一つずつ順番に訳した。
※仮名文字
【方】【眺】【唯】の漢字に注意。
「本」「支」「楚」「類」の仮名に注意。
【八二】
〈原文〉【思】日王ひ さてもいのち八 【有】ものをう幾耳【堪】ぬ八 な三多【成】希李
〈底本の訳〉つれない人のことを思い悩んで、この身は絶え果ててしまうかと思いましたが、それでも命だけはなんとかつないでいるのに、そのつらさにたえられないのは涙で、とめどなくこぼれ落ちています。
〈試訳〉つれない人のことをどれほど思い悩んでも、命はこの身に宿ったままなくならない。だが、涙はつらさに耐えられず、この身からどんどんこぼれ落ちていく。
・上の句の訳し方
→「命」と「涙」が対比されているため、つらさに耐えかねてどんどん身からこぼれ落ちる涙と、つらくとも自身を離れない命というイメージであると考え、「命はこの身に宿ったままなくならないけれど」と訳した。
※仮名文字
【思】【有】【堪】の漢字に注意。
「日」「幾」「多」「李」の仮名に注意。
【八三】
〈原文〉【世中】よ 【道】こそな遣連 おもひ【入】【山】能於く耳毛 【鹿】楚【鳴】な流
〈底本の訳〉世の中というのは逃れる道はないのですね。深く分け入った山の奥でも憂きことがあるらしく、鹿がもの悲しく鳴いているようです。
〈試訳〉世の中というのは、苦しみから逃れる道がないのだなあ。俗世を離れるために入った山の奥でも、鹿がもの悲しく鳴いているようだ。
・「思い入る」の訳し方
→悲しみという煩悩から解放されるために入った山奥で、鹿の鳴き声を聞いてここにも悲しみがあることを知り、逃れる道がないことを諦めている、という歌なので、「俗世を離れるために入った」と訳した。
※仮名文字
【道】【鹿】の漢字に注意。
「遣」「楚」「流」の仮名に注意。
【八四】
〈原文〉な可らへ八 ま多この【比】や 【忍】者れん宇しと【見】しよ楚 い万盤古ひしき
〈底本の訳〉この世に長らえたら、つらい今のことがなつかしく思い出されることでしょう。つらかった昔が今では恋しく思われることからして。
〈試訳〉この世に長く生きていたら、いつか今のつらい日々のことも懐かしく思い出されるようになるのだろうか。つらかった昔のことも、今では恋しく思われるのだから。
・上の句の訳し方
→二句目の「や」を疑問の意に取って訳出することで、今のつらさを強調した。
※仮名文字
【比】【忍】の漢字に注意。
「多」「宇」「盤」「古」の仮名に注意。
【八五】
〈原文〉よも春可ら 【物】【思】ふころ八 【明】やら弖【閨】能【隙】さへ つ連那可里遣利
〈底本の訳〉夜通しつれないあなたのために物思いしているこのごろは、早く白んでくれればよいと思いますが、なかなか夜は明けてくれず、つれない人ばかりか寝室の隙間さえもがつれなく思われることです。
〈試訳〉一晩中、つれないあなたのことを思って、この頃はなかなか眠れない。早く朝になってほしいのに、なかなか夜は明けてくれない。明るくならないので、寝室の戸の隙間さえもつれなく思えてくることだ。
※仮名文字
【物】【思】【閨】【隙】の漢字に注意。
「春」「弖」「那」「利」の仮名に注意。
【八六】
〈原文〉【歎】けとて 【月】や八ものを 【思】八須るかこち【顔】な流 王可な三多可那
〈底本の訳〉嘆けといって月が私に物思いをさせるのでしょうか、いやそうではありません。それなのにそれを月のせいにして、恨めしくもこぼれ落ちる私の涙ですよ。
〈試訳〉嘆けといって、月が私に物思いをさせるのだろうか、いやそうではない。そうではないのに、月のせいにして、私の涙は零れ落ちる。
・下の句の訳し方
→音で聞いた時のわかりやすさを考慮して、簡潔に訳した。
※仮名文字
【歎】【顔】の漢字に注意。
「王」「那」の仮名に注意。
【八七】
〈原文〉【村雨】の 【露】もま多ひぬ 【槙】の者尓【霧】多ち能本累 あ幾能ゆふ【暮】
〈底本の訳〉村雨がひとしきり降った後、その露もまだ乾かない槇の葉に、霧が白く立ちのぼっている秋の夕暮れであることよ。
〈試訳〉村雨が降った後、槙の葉に置く露。その露がまだ乾かないうちに、霧が白く立ちのぼってくる、秋の夕暮れ。
※仮名文字
【雨】【露】【暮】の漢字に注意。
「ま」「幾」の仮名に注意。
【八八】
〈原文〉【難波江】能 あしの可りね乃 【一夜】ゆへ【身】越つ具してや こひ【渡】るへき
〈底本の訳〉難波江の葦の刈り根の一節のように短い一夜の仮寝のために、身を捧げてあなたを恋い続けるのでしょうか。
〈試訳〉澪標で有名な難波江にある葦の、刈り取った根の一節のように、短い一夜の仮寝のために、この身を尽くしてあなたを恋い続けるのだろうか。
※仮名文字
【難波江】【身】【渡】の漢字に注意。
「可り」「具」の仮名に注意。
続いて、絵姿も文字も趣がまったく違う光琳カルタの確認もしました。28番歌から54番歌までです。これも、以下に引きます。
■光琳かるた[変体仮名翻字版-2023] 二八〜六三番歌
(『別冊太陽愛蔵版「百人一首」』、平凡社、一九七四年十一月九日発行 より)
二八 源宗于朝臣
【山里】は 【冬】そ【寂】しさ 満さ里ける
【人】めも【草】毛 か連ぬと【思】へ者
二九 凡河内躬恒
【心】あ弖尓 おら者や【折】ん 【初】しもの
【置】まと者世類 志ら【菊】の【花】
三〇 壬生忠岑
【有明】の つ連なくみえし わ可連よ里
あ可つき者可り う起もの盤なし
三一 坂上是則
【朝】本らけ 【有明】の【月】と 三る万弖に
よしのゝ【里】耳 ふ連類【白雪】
三二 春道列樹
【山川】尓 可せの可け多る 志可らみ盤
な可れもあへぬ 毛三ちな里けり
三三 紀友則
【久方】の 日可り能とけき はる乃【日】耳
志徒【心】なく 者那のちるらむ
三四 藤原興風
【誰】を可も 志る【人】にせん 【高砂】の
満川もむ可しの 【友】ならな具尓
三五 紀貫之
【人】盤いさ 【心】も志らす 布る【郷】盤
【花】楚む可しの 【香】尓ゝほ日ける
三六 清原深養父
【夏】のよ盤 万多【宵】な可ら あけぬるを
くものい徒こ尓 【月】や登るらん
三七 文屋朝康
志ら徒ゆ耳 可せの【吹】し具 【秋】能ゝは
つらぬ起とめ怒 【玉】楚ち里ける
三八 右近
わすら留ゝ 【身】を盤おも者寸 ち可日てし
【人】乃いのち濃 おしくも【有】可那
三九 参議等
あさちふの を能ゝし濃【原】 志のふ連と
阿万里てなと可 【人】の【恋】しき
四〇 平兼盛
志のふ礼と 【色】尓【出】にけり わ可こひ八
ものやお毛婦と 【人】乃登ふ万弖
四一 壬生忠見
【恋】すて婦 わ可【名】盤万多き 【立】尓けり
日とし連すこ楚 於毛ひ所めし閑
四二 清原元輔
ちき里支な 可多み尓そてを し本里徒ゝ
すゑの万川【山】 【波】こさしとは
四三 権中納言敦忠
あ日三弖の 【後】乃【心】尓 くらふ連は
む可し盤ものを 【思】者さ里けり
四四 中納言朝忠
【逢】【事】の 多えてしなく八 【中】/\に
【人】をも【身】乎毛 うらみさら満し
四五 謙徳公
あ者連とも 意婦へき【人】八 おも本えて
【身】のい多つらに な里ぬへ支可な
四六 曽祢好忠
ゆらの【戸】を わ多る【舟人】 可ち越多え
【行衛】も志らぬ 【恋】の【道】可な
四七 恵慶法師
【八重葎】 志希連るやとの さひし支尓
【人】こ楚みえね 【秋】盤き尓ける (陽明本は「遣礼」)
四八 源重之
【風】をい多み 【岩】うつ【波】の 【己】乃三
く多け弖ものを 【思】ふころ【哉】
四九 大中臣能宣朝臣
み可き【守】 【衛士】の堂く【火】能 よる盤もえて
日るは【消】徒ゝ 【物】をこ楚【思】へ
五〇 藤原義孝
きみ可【為】 おし可らさりし いのちさへ
な可くも可那と お毛日ける【哉】
五一 藤原実方朝臣
かくと多尓 衣や盤いふきの さしもくさ
佐しも志らしな 毛ゆる【思】日を
五二 藤原道信朝臣
【明】ぬ連盤 くるゝものと八 【知】な可ら
な越うら免しき 阿さほら希可な
五三 右大将道綱母
な希支川ゝ 【独】ぬるよの あく類【間】盤
い可耳【久】しき ものと可はし留
五四 儀同三司母
【忘】連しの ゆく【末】まて八 か多け連と (陽明本は「遣連者」)
気ふをか支里乃 い能ちとも可な
30分の間をおいて、次はハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』の書写本文を、[変体仮名翻字版]にしたプリントを見ながら確認をしました。
今日、詳細に文字を見比べて説明したのは、以下の3例です。
(1)9丁表9行目 「个」と「介」を見分ける
これは、下に伸びる線が一旦右に折曲がる形の場合は「介」、下に伸びる線が真っ直ぐに次の文字に続く場合は「个」とする、という私見に基づく読み分けです。次の写真を見ていただければ、その微妙な線の流れがわかると思います。「个」めったに見かけないので、ここでの例は貴重です。
(2)50丁表2行目「より八と」の「よ」
この巻では、「より」という文字の多くが、特に「よ」の字形が傾いています。その中でも、この例は極端に寝た姿となっているので、取り上げて確認しました。
(3)50丁表10行目「女宮」の「女」をミセケチにして「ひめ」を傍記する
「女」という文字の右にある縦長の傍線の意味することが、私にはわかりません。その「女」の右上にある短い傍線や少し長めの斜めの線を、私はミセケチ記号だと判断しました。ただし、「ひめ」という文字の字形や墨の色から見て、本行が書写された時から相当後の別人による校合の跡だと思われます。
なお、こうした3例は、今後の生成AIを活用して古写本を[変体仮名翻字版]で翻字できるようにするために、サーバーに送るデータとしてプールしておくものです。その準備をしているところです。
生成AIは、中国の「ディープシーク」の参入でおもしろくなりました。オープンAI社の ChatGPT と違い、まったく違う手法で開発されたとされているからです。いろいろと問題はあるものの、この中国の生成AIが、日本版の生成AIの開発に勢いをつけようとしています。日本人が得意技とする手法で開発できる可能性が生まれたからです。
ということは、人工知能が日本版として身近になる日が近いとすると、古写本の研究に役立つ研究手法や、基礎データを作り上げながら、新しい生成AIの活用の道を探りだす好機が到来したことになります。
文学研究と称する読書感想文は、もう生成AIが書く時代になっています。資料さえ揃えれば、勝手にまとめてくれるのですから。人間は、それを推敲し、校正することで、論文らしきものに仕上げていくことになりました。
となると、人間にしか出来ないこととしては、まずは基礎データの作成です。いま進めている「変体仮名翻字版」のデータの公開によって、このデータを活用した生成AIを共同研究者とする研究成果というものは、量産態勢に入ることでしょう。本格的に考えなければならない課題だといえましょう。そして、これは確認や検証ができるので、思いつきが説得力をもってきます。
その意味からも、これからの文学研究は、原本を扱うことの重要性が再認識される時代になっていくはずです。私が、東京、京都、大阪の源氏講座で、『源氏物語』の鎌倉時代の古写本を[変体仮名翻字版]でデータベースを作成している仕事は、新たに生きる世界が見つかった、といえます。
このことは、また詳細に実例を踏まえて書くつもりです。
以下、本日のハーバード大学蔵『源氏物語 蜻蛉』の書写本文で、第48丁表〜50丁裏の箇所を[変体仮名翻字版]で確定したものを、まとめて公開します。
■ハーバード大学本「蜻蛉」[変体仮名翻字版-2023]第48丁表〜50丁裏
※翻字データの中にある付加情報(/)の記号について
傍書(=)、 ミセケチ($)、 ナゾリ(&)、
補入記号有(+)、補入記号無(±)、 和歌の始発部( 「 )・末尾( 」 )、
底本陽明文庫本の語句が当該本にない場合(ナシ) 、 翻字不可・不明(△)
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そ免多る・うすものゝ/(うすものの)・ひとへ越・こ万や可なる・
な越し尓・き・多万へる・いと・この万しけなり・
【女】乃・【御身】なりの・めて多かりしにも・於とら春・
しろく・きよら尓て・な越・阿りしより八・於毛
やせ・【給】へる・いと・三る・かひ・阿りて・於ほえ・【給】へり
と・三る尓も・万川・こひしき・【事】・いと・あるも
しき/も$万、(ある万しき)・【事】と・し川むるそ・多ゝなりしよりは/(多多なりしよりは)・
くるしき・於もひを/於もひ$、ひ+ゑ、(ゑを)・いと・於ほく・も多せて・ま
いり・【給】へり介る・【女房】して・あな多に・万いらせ・【給】て・
王れも・王多らせ・【給】ぬ・【大将】も・ち可く・万いりより/(48オ)
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【給】て・【御】者可う乃・多うとく・【侍】りし・【事】・い尓
しへの・【御】ことなとすこし・きこえ川ゝ/(きこえ川川)・能こ
里多る・ゑとも・三・多まふ・川い弖尓・かの・さと
に・ものし・たまふ・三古の・くもの・うへ・八なれ弖・
【思】ひくし・【給】へるこそ・いと越しう・三・多万うれ・
ひめ三やの・【御】可多より・【御】せうそこも・【侍】らぬを・
かく・しな・さ多万りたる尓/て&た、(さ多万りてる尓)・於も本しすてさせ・
【給】へる・やう尓・【思】日て・【心】ゆ可ぬ・介しきの三・【侍】るを・
かうやうの・【物】・とき/\/(ときとき)・【物】せさせ・【給】八んなん・なにか
し可・於ろして・毛て万からん・八多三る・かひも【侍】らしかしと/【侍】〈次頁〉、(48ウ)
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きこえ・【給】へ八・あやしう・なとて
可・すて・きこえ・【給】八ん・うち尓て八ち可ゝりしに
川介て/(八ち可可りしに)・とき/\/(ときとき)・きこえ・【給】めりし越・ところ/\二/二〈行末右〉・
なり・【給】し・於り尓・と多へそめ【給】へる尓こそ・
いま・そゝ能可し/(そそ能可し)・きこえん・所れよりも・なと可八と/八と〈行末左〉・
きこえ【給】・かれより八・い可て可八・もとより・可す万
へさせ・【給】八さらん越・かう・したしうて・佐ふら
婦へき・ゆ可里尓・よせて・於ほし可す万へさせ・【給】
者んこそ・うれしく八・【侍】るへ个れ・万して・さも・
きこえなれ・【給】日尓介んを・いま・すてさせ(49オ)
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【給】八ん者・からき・こと尓・【侍】りと・介いし・【給】越・
須き者みたる・介しき・阿りと者・於ほしかけ
さり介り・[25]たちいてゝ/(たちいてて)・ひとよの・【心】さしの・【人】尓も・
あ者む・あ里し・王多【殿】も・なくさめ尓・三ん
かしと・於ほして・【御】万へを・あゆ三わ多りて・にし
さ万尓・於者須る越/せし&須る、(於者せし越)・三すの・うちの・【人】八・【心】ことに・
よう井・す・け尓・いと・さ万・よく・かきり・なき・もて
なし尓て・王た【殿】ゝ/(王た【殿】の)・可多は・うちの於ほ【殿】ゝ/(うちの於ほ【殿】の)・
き三多ちなと・ゐ弖・もの・いふ・介者い・すれ八・川万との・
万へ二・ゐ・【給】て・於ほ可多に八・万いりな可ら・この・【御】可多能けんさん尓/け〈次頁〉、(49ウ)
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いる・ことの・【侍】らね八・いと於ほえなく・
於きなひ八て尓多る・【心地】・し・【侍】る越・いまより八と・
於もひ於こし【侍】りてなん・阿り川可春と・王可き・
【人】/\そ/(【人人】そ)・於も者んかしと・をいの・き三多ちの・【方】
を・三やり・【給】・いまより・なら者せ・【給】八んこそ・け尓・王
可く・ならせ・【給】なら免なと・者可なき・ことを・いふ・
【人】/\の/(【人人】の)・介者いも・あやしう・三やひ可尓・を可し
き・【御】可多の・阿りさまにそ・ある・その・ことゝ/(ことと)・な介
れと・よの【中】能・もの可多りなと・し川ゝ/(し川川)・し免
や可にれいより八・ゐ・【給】へり・【女宮】八/【女】〈【女】ノ右ニ傍線〉$ひめ、(ひめ【宮】)・あな多に・わ多らせ/ら〈次頁〉、(50オ)
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【給】尓介り・【大宮】・【大将】の・そな多に・万いり
川累八と・ゝひ/(とひ)・【給】ふ・【御】とも尓・万いり川る・於ほさ
いしやうのき三/於ほさいしやう$【大納言】、き三$、(【大納言】の)・【小宰相君】尓/=こ、(こ【小宰相君】尓)・もの・ゝ【給】八んとにこそ/(の【給】八んとにこそ)・
八へ免りつれと・きこゆれ八・万め【人】の・さ春可尓・
【人】尓・【心】とゝめて/こゝら&【心】とゝ、(ここらめて)、(【心】ととめて)・もの可多りするこそ・【心】ち・をく
れ多らん・【人】八・くるし介れ・【心】の・本とん・三ゆらん
かし/らん&らん・こ【宰相】なと八・いと・【心】や春しと・の多万ひて・
【御】者らからなれと・この・き三越八・なを・八川
可しう・【人】も・よう井・なくて・みえさらなんと・於ほ
い多り・【人】より八・【心】よせ・【給】て・つ本ねなとに/つ&つ・多ちよ里/里〈次頁〉、(50ウ)
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